困惑と
(3/12)
「霊圧、乱れすぎですよ雪音サン」
「うるさい…」
何とかルキアちゃんに「雪音。ただの雪音」と声を絞りだして伝えて、「そうか!雪音か!宜しく頼む!」という声に適当に「宜しく」と答えた。やっとの事でピシャリと店のドアが締まり、ほっと息を吐く。
「朽木…って言ったよね、」
「言いましたね」
どういう事だ…?
白哉の娘…にしては大きすぎるし、
妻…とも考えにくい。
同姓も考えたが、上級貴族の姓を語るなど、有り得ぬ事だろう。
「…怒らないンスか」
「何で?」
「恐らくですが貴方の肉親を巻き込んだんスよ?」
「ルキア、なんて聞いた事ないよ」
「…恐らく、ですよ」
この嫌な予感が外れてくれ。ただの同性であってくれ。と願って、私は嫌なほど晴れた青空を仰いだ。
夜更け。
ビリッと、電流が走ったように、体の隅まで何かが迸る。霊圧遮断型の義骸に入っているのは分かりきっているのに、本能なのか、思わず霊圧を消してしまった。
勿論、その理由はこの肌を刺すような、細胞が全身で懐かしいと叫ぶような、感じたことのある霊圧。
(この霊圧は……)
(白哉…!)
何の策も何の理由もなくその霊圧の元へ駆け出したのは私だというのに、その場に着くと動けなかった。目の前で起きている事を、脳が処理しきれずに、零れ落ちていく。白哉の妹が、ルキア?朽木家に拾われた?どういう事だ。目の前で繰り広げられる会話の内容が分からない。
半分パニックな状態の癖に、「一護がこっちに向かってるな」なんてどこか冷静に分析している自分もいて、私はただただ一護と白哉の、戦いとも呼べない数秒間を眺めている事しか出来なかった。勿論、ここで私が手を出せば白哉に見つかって尸魂界に連行されるのはルキアだけでなく私も加わってしまうから仕方ないのだけれど。
でも。何故白哉はルキアを易々と尸魂界に連れ帰るのだろうか。実の弟だというのに彼の事がよく分からない。霊力譲渡は重罪だ。場合によっては霊力全剥奪さえ有り得る。それなのに、どうして白哉は妹を逃がす方でなく、連れ帰る方になっているのだ。
(百年、か…)
私が尸魂界を離れてもう百年以上経つ。その間、私が変わったように、彼もまた、変わったのだ。私の知る白哉は、姉上!と私の後ろを着いてきた白哉は、もうどこにもいないのかもしれない。
「雪音サン」
「何…」
「泣いてるのかと思ったんスけど」
「泣いてねぇよ」と言ったのと同時に、瞳からぽろりと零れたひとしずく。
「っ…」
百年経った。すぐ近くに居た白哉の霊圧は強く、大きく、重くなっていた。そしてそれと同時に感情を押し殺したような目に、面影を感じられないほど硬い口調。私の知らない白哉が、そこには居た。百年経ったのだ。変わっていて当たり前なのだ。でも、それでも、私にはそんな白哉の姿が何故だかショックだった。
「はいはい、いくらでも泣いていいんスよ」
喜助に抱きしめられて、ぽんぽんと背中を一定のリズムで叩かれて、安堵感が広がる。私は誤魔化すように彼の肩に額を押し付けた。
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