朽木姉 | ナノ

聞き覚えのある


(2/12)







「なんで私が店番やらなくちゃいけないの?喜助やればよくない?は?」

春先だというのに、今日はいつもの何倍も暑い。取り出したうちわでパタパタと仰ぎながら文句を言うと、ケロリとした顔で目の前の男に言い返された。

「アタシは店長っスもん。店員は店長に従って貰わなくっちゃ」

「宜しくおねがいしますね、雪音サン♪」と、目の前の男_浦原喜助は惜しげも無くニンマリ笑みを浮かべて言う。
ふざけんな、と蹴りをいれようとすると、まァはしたない、とニコニコしながら避けられた。私が腹を立てるであろう事を理解して言葉を選んでくる所も、蹴りを入れようとした足をサラリと躱す所も気に食わない。



「さて、アタシは奥で昼寝でもしてきます」
何かあれば呼んでください、と欠伸しながら言う彼に、もう1発蹴りをいれたいのを押さえ込んで見送った。彼が崩玉の隠し場所としてこの町に駐在していた死神を選んだのを知っているし、そのための研究やら何やらで最近寝てない事も承知していたからだった。

「今回だけだからね」と不貞腐れて返すと、「今度美味しい茶菓子を仕入れときます」という言葉と一緒に頬に口付けられた。相変わらず、彼は私の扱いが上手い。それに乗せられてしまう私も私だが、まぁ店番くらいならいいか、と思って私は誰もいない駄菓子屋を見渡した。







「おい!浦原!」
慌ただしく入ってきたのは、ハキハキと喋る黒髪の高校生と、派手なオレンジ髪の同じく高校生。
とても駄菓子を買いに来たとは思えない2人に、一応、貼り付けた笑みと「いらっしゃ〜い」という言葉をプレゼントする。

「あれ?ゲタ帽子いねぇのか?…いねぇなら帰ろうぜ、ルキア」

キョトンとした表情を浮かべる男の子に、この2人のどちらかが崩玉の隠し場所だな、と察する。駄菓子を買いに来ただけの高校生が喜助に用があることなんて万に一つもないだろう。


「今、奥で寝てるよ。起こそうか?」

「いや…それなら構わない。大した用ではないからな」

そう言ったものの多少渋っている目の前の少女(確かルキアと呼ばれていた)に、私としてもお客さんの要望に何も答えず帰ってもらう訳には行かない。出来るだけのことはしてあげたくて、「じゃあさ」と目の前のルキアちゃんに話しかける。


「私でよければ、相談乗るけど?死神のイロイロ、とかね?」

ぱちりとウインクすると、ルキアちゃんは「やはり貴様も只者ではないな」とぼそりと感想を漏らした。勿論彼女の言う通り、私はただの店員ではないし、ここは普通の駄菓子屋ではないのだが。





「義骸の調子が悪い?」
「そうだ。ここ数日の事なんだが…」
「う〜ん義骸かぁ…」

専門外だ、ごめんね。と、謝ろうとした時だった。


「あらま、お客さんじゃないっスか!」

ふぁ〜っと大きな欠伸を1つして、喜助が現れる。

「浦原!」
「ゲタ帽子!」

「いい加減名前覚えてください…黒崎サン」
「で…義骸の事でしたね?」


喜助はいつも通りヘラヘラ笑って受け答えしているけれど、私たちは分かっている。ルキアちゃんが二度と死神に戻ることはないであろう事も。このまま段々と霊力を失っていくであろう事も。そしてその全てが、私たちの都合だということも。








「ありがとよ!ゲタ帽子」
「はーい、またのお越しを〜!」
「あっ!そういやアンタ!名前聞いてなかったな!」

ニカ、と笑って私を指さすオレンジ髪の彼に「名乗る時は自分から、でしょ?」と指摘すると「わりぃ!」と反省した様子もなく「黒崎一護だ!」と名乗ってくれた。

「ほら、ルキアも挨拶しろよ!」
「分かっておる!!」



びゅん、と風が吹いた。
ぞわり、と自分の霊圧が揺れたのが分かった。


「朽木ルキアだ」












 
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