朽木姉 | ナノ

愛しい日々の記憶は古傷を痛ませる


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…痛てぇ

そう言えば、尸魂界に来る前、喜助に怪我だけはしないでください、と釘を刺されていた事を思い出す。喜助、怒るかな、なんて考える余裕がある自分が何となく可笑しい。



「…ちゃん、…雪音ちゃん」

薄らと目を開けると、目の前には織姫。ああ、彼女が救ってくれたのか。お礼を言おうと口を開くが、言葉が喉元に絡まって、音になるのは乾いた咳ばかり。

「駄目だよ、無理しちゃ…、まだしっかり治ってないから。」
「もうちょっと、待ってね」と苦しそうに笑うので、私はせめて大丈夫だと伝えたくて、力なく笑ってみせた。





「ありがとう、もう大丈夫」

腹を摩る。多少の痛みはあるものの、生命の危機は脱している事くらいは理解出来た。

「でもまだ、ちゃんとは治ってないよっ!」

「いいよ、一護治してあげな」

傍らで私と同じく織姫の治療を受けている一護の顔色は随分悪い。心配してくれているらしい織姫に「私はもう大丈夫だよ」と声をかけて頭を撫でる。

きょとん、とした表情のまま固まる織姫に、しまった、と慌てて「ごめん!女の子だもんね!頭撫でられるとか髪型崩れて嫌だよね!」と、いいわけがましく謝る。


「ううん。雪音ちゃんに頭撫でられるの、安心する…お兄ちゃんに撫でられたみたい」

はにかんだ織姫に、私も思わずつられて微笑む。「よく、弟の頭を撫でたんだ」

私が怪我をする度、心配して私の床を離れようとしない白哉に、「大丈夫だ」と告げながら。




「朽木雪音様、総隊長殿がお呼びです」
懐かしい記憶を思い出すことさえ許さないとでも言うように、隠密が連絡を寄越す。ああ、せっかく織姫に治して貰ったのに、多分殺されちゃうか、禁錮だろうなぁ。なんて考えて、苦笑する。



(まぁ、でもいいか。)
(元々殺される覚悟で救出に来た)
(ルキアを助けられただけで、充分私がここに来た価値はある)








「わぁお、皆さんお揃いで」

一番隊の扉を開ければ、各隊の隊長だけでなく、副隊長までもが勢揃いしていた。

勿論、未だ四番隊で治療を受けている隊長、副隊長を除いて。だが。




「朽木…雪音」
1番奥で私の名を呼ぶのは、総隊長。はい、と小さく返事をすれば、重苦しく口を開く。

「お主は重罪人でありながら、尸魂界の土を再度踏み、あろうことか瀞霊廷へ侵入した。間違いないか?」

「はい」

「これは、あるまじき行為だ。罰せねばならん」

覚悟の上です。と、総隊長を見つめる。この人には言い訳なんて通用しない。元々言い訳するつもりはないのだけれど、あったとしても無駄だ。

これから総隊長に告げられるであろう刑罰を潔く受けるつもりで、そっと目を閉じる。100年前と違って、恐怖はあまり感じなかった。


「朽木雪音を、不問とする!」

「……は?」

思わず間抜けな声が口から零れる。…何で。

「お主は藍染に刃を向け、手傷を負わせた。そして双極にいた全死神が、藍染のお主に罪を被せたという発言を聞いたと証言した」

「生憎お主に判決を下す四十六室は藍染によって殺されておる」

「よってそれを踏まえて隊長格で決議した所、話せる状態の全隊長格の賛成をもって朽木雪音、お主は罰しない事とした」


力が、抜けるのが分かった。「雪音ちゃんみたいな強い子を失う方が尸魂界にとって痛手だからねぇ」と笑う京楽に、私も力なく「ありがとう」と返す。

感謝以外の、何物でもなかった。1人の反対もなく、全隊長格が私を救ってくれようとしたということが、私には心底嬉しかった。


「雪音、会わせたい奴が居るんだ」

まばらに解散し始めた頃、浮竹に声をかけられて私は十三番隊へと連れられた。浮竹のその背中は、100年前とも、それ以上前の、隊長!と呼んでいた頃とも変わりなくて、それがまた嬉しくて私はふふっと笑みをこぼした。













 
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