恨みも積もれば山となる
(9/12)
「何故、助けに来たのだ…雪音」
「面倒事は御免だと言っただろう」
粗悪品の改造魂魄を売りつけてしまった時、喜助がルキアに向かってそれっぽい事は言っていた気がする。「面倒な事になったらアタシら姿くらましますからね」とか何とか物騒なことも。
「面倒事は御免って言ったのは喜助だからね」
「まぁ、私も御免だけど」
「なら何故、私を…」
「逃げ切れたら教えてあげる」
ちょっと長くなっちゃうけど。と付け足すと、ルキアの返答より早く、隣にびゅん、と霊圧がやって来る。「恋次!」と叫ぶルキアに、彼が敵でない事を私は悟る。
「阿散井恋次です!」とご丁寧に自己紹介してくれる彼は「俺がルキアを抱えて走ります!雪音さんは一護の元へ!」と、大声で発した。
恋次の名前は一護から聞いていたし、恋次の言うとおりにルキアを任せて「絶対落とすなよ!」と釘を刺して踵を返した。
それとほとんど同時。4番隊からの天挺空羅で、名前を聞くだけで憎悪で全身の毛が逆立つような彼の名前と、そして彼が四十六室を全滅させた事が伝えられた。
即ち、彼が、藍染惣右介が、狙っているのは。
「クソッ!!!」
やっぱり離れるんじゃなかった、と脳内で悪態を吐きながら、ルキアの方へと踵を返す。
しかし。一瞬にして、確かに向かっていた方向に居た筈のルキアも、恋次も、勿論、藍染の霊圧も、双極へと移動していた。
「ああもう!」
瞬歩で、双極へと向かう。周りの隊長格の霊圧も、双極へと向かっているのが何となく分かった。
瞬歩を、繰り返す。ルキアが、狙われている。ギンの刃が、ルキアに向かって構えられている。
届け。届け。もっと早く瞬歩を。もっと早く!
あと少しの所で、ギンの刃はルキアへと伸びて行く。間に合わない、とぎゅっと目をつぶったと同時に、懐かしい実弟の霊圧が近くで揺らいだ。
「おや、懐かしい顔だ」
「消したはずなのに?…か?」
驚くことも、戸惑う色さえ見せない藍染に、私はフンと乾いた笑いを零す。
背後にルキアと白哉を隠しながら、回道で深手を負った白哉の傷を少しでも止血しておく。
「背を向けたまま回道を使うとは…随分腕をあげたようだね」
「そっちこそ……やっと化けの皮剥がしたのね」
「彼女を妹と知れば、優しい君のことだ。助けに来るだろうと、思っていたよ」
「そりゃどーもっ!!!」
距離を一気に縮める。斬魄刀に霊圧を込める。
こいつを殺したいと、体中の細胞が叫んでいた。
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