DcM8791




 目を閉じたって、この煉獄に終わりはない。不意に目を閉じたその時には、誰のものともわからない視界が、逃れられない呪いを思い返すばかりなのだ。
「美耶子・・・早く、会いたいよ」
名無しのなすべきこと、あの子のなすべきこと。彼女達は境遇は違えど、異界に生きる、人間の意識を持った生き物同士だ。まずは家を作った。家とはいっても、冷たい地下室のそのまた奥で、体をつけて暖めあうような、体をなしていないもの。そして、目標を作った。村人を解放しなくてはならないと、村を呪詛から救わねばならないと。
 機会はまた、約三十年後にやってくる。何度、何度ここに無理やり連れてこられた人間の悲鳴を聞いたことだろう。泣き荒び、涙は血に変わり、大地に怨恨と共に沁みこんでいった。様々な時間が混ざり合って混沌が生まれようと、死ぬことも適わなかった村人が消えることなんて無い。名無しには痛いほどにそれが伝わってくるのだ。視界が支配できるからか?確かに耳に伝わる声からか?違う、もっと、核心に迫るもの。

「神さまが鳴いてる・・・」
 これが私達の合図だった。手がかりを探す時間は終わって、身を寄せ合い、夜と呼ばれた時間を小さく過ごす時間。心細くて仕方が無かった、心から望んでいたあの子のもとに帰ることが出来る。

「名無し、なにかあった?」
「ううん、何も・・・」

「ねえ、名無しは今も神を信じてる?」
「神さまは、確かにここにいるの」
「私達、その神にこんなことを強いられているのよ・・・」
「神さまは、試練をお与えになっているだけよ。救ってくださるはずなの」
「・・・名無しがそういうなら、きっとそうよね」






prev next


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -