誇り高き至高の月 | ナノ

バルバッド編-16


「んだよ…」

ノロノロと起き上がったジュダルに、ジンが追撃をかます。
ジュダルは慌てて防御魔法で身を守ろうとするが、呆気なく殴られてしまった。
体勢を立て直そうとするジュダルに、ジンがさらに猛攻をしかける。

「ちょっ、ちょっと待て!なんなんだよそのジンはあ!?」

ジンの攻撃を避けながらジュダルが叫んだ。
さっきまでの様子と違い、まったく余裕が見られない。

「おいチビ!!そのジン卑怯だぞ!!さっきからお前は自分の魔力をそいつに与えてないじゃないか!つまりそいつ今、他のやつの魔力で動いてるってことだろ!!そのジンは…そのジンは…お前のジンじゃない!」

ジュダルの言うとおりだ。
青い髪の少年は、もうジンに魔力を与えていない。
しかもあんな大きな傷を負っているというのに実現し続けている。
ということは、ジンはあの少年以外の魔力を使って動いていると言うこと。
しかしジンを実現させるには膨大な魔力を必要とする、それもマギのような…

「勝った!」

ジュダルの声に我に返ると、ちょうど彼が氷槍をジンに突き刺したのが目に入った。
氷槍が刺さった衝撃でジンの動きが止まり、ジュダルが勝ち誇ったような表情を浮かべる。
しかしそれも一瞬のことで。
ジンの大きな手が防御壁ごとジュダルを握りしめ、地面へと薙ぎ払った。
かなりのダメージを受けたのだろう、ジュダルはうつぶせのまま動かない。

「ウーゴくん…ウーゴくんっ!!」

青い髪の少年が何度もジンに呼びかけるが、聞く耳を持たない。
ジンはジュダルにただとどめを刺そうと暴走していた。

「まずいっ 全員逃げろ!!」

危険を察したシンドバッドが、まだ広場に残っていた霧の団やアリババくんたちに向かって叫ぶ。
しかしその言葉は恐怖を人々の心を煽る結果となり、広場は一気に阿鼻叫喚の巷と化した。
逃げ惑う人々、迷っている暇なんてなかった。

「蒼天と穏健の精霊よ、汝と汝の眷属に命ず…」

ジンの体から湯気があがり、ジンの両手が赤い光を帯びた。
…熱魔法だ。
水魔法じゃないとジンの攻撃は完全に防ぎきれないだろう。
生憎とレンは、このジンの攻撃を完全に防ぐための水魔法の類は持ち合わせていなかった。
アスラがいれば…
親友でもあるフリーアが誇る天才魔導師を思い浮かべ悔やむが、今は贅沢を言っている場合ではない。

「我が身に纏え我が身に宿れ。我が身を大いなる魔神と化せ……バティン!!」

肌が蒼白の鱗で覆われていく。
二匹の龍が円を画きながら頭上を舞った。
さっきの武器化魔装とは違って、全身魔装だ。
大きな音とともに、爆風が迫る。

「お願いよ、耐えて……蒼龍壁!!」


***(微アリババside)


「まずいっ、全員逃げろ!!」

シンドバッドさんの声に、モルジアナが大の男五人とアラジン、さらに俺までもを抱えて飛び退がった。
しかしそれでも全員がちゃんと避難出来るわけはなく。
反応が遅れて避難が出来なかった霧の団のメンバーたちがまだ広場に残っているのに気づき、あり馬場は息を呑む。
まずい、助からないかもしれない…
大きな音、吹き荒れる熱風に一気に視界を奪われる。

「…アリババさん、大丈夫ですか」

爆風がやみ、モルジアナがそっと俺たちを地面に降ろした。
俺には怪我はない、だけど、

「っ、他の霧の団のみんなは!?」

「大丈夫です。シンドバットさんのおかげで、犠牲者はいないようです。…またあれのおかげでもあります」

「!」

モルジアナが指差したものを見てアリババは驚愕した。
アリババの眼前にあるのは大分破損してはいるが、逃げ遅れた霧の団のメンバーを守るかのように広場を覆っている氷のドームだった。
どうやら団員はあの氷のおかげで直撃はせずにかすり傷程度で済んだようだ。
良かった、と息をついてアリババはドームの中心に視線を移し、思わず声を上げた。

「っレンさん!?」

ふらりとよろけたその人は、そのまま地面に倒れこむ
慌てて駆け寄ると、レンさんの周りを飛んでいた龍が姿を消して、肌を覆っていた鱗が消えた。
腕に出来た火傷が痛々しい。

「レンさんっ、大丈夫ですか!?」

「アリババくん……みんな無事?」

「は、はい無事です…」

でもレンさんが怪我を、そう言いよどんだ俺にレンさんは言った。
みんな無事、それで十分…そう笑ったレンさんの言葉に少し涙が出そうになった。


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