誇り高き至高の月 | ナノ

バルバッド編-17


何とかジンの攻撃からみんなを守ることに成功したようだ。
でも…
魔装を解くと、一気に疲れが襲ってくる。
レンは痛む腕の火傷に顔をしかめた。
炎には相性の悪い、氷の壁―氷龍壁。
いつもだったら相性が悪いと言ってもどうということはないのだけれど、流石はジンだ。
攻撃を防ぐだけだったのに、体力が限界を告げている。

「ごめんねアリババくん。手を貸してもらえるかしら?」

「え?あ、はい…」

うまく足に力が入らなくて、仕方なくアリババくんに支えてもらいながら立ち上がる。
ジンの攻撃によってぼろぼろになってしまった広場や建物。
怪我人が少なく済んで本当に良かった。
ほっと安堵の溜息をついたその時だった。

「あらあらぁ…なんなのぉ?あの化け物は…」

上から降ってきた声に、レンは空を仰ぐ。
宙に浮く絨毯を見てみれば間一髪助け出されたのであろう、顔を覆面に隠された人物の手の中にはジュダルの姿があった。
大きな絨毯に書かれた煌という大きな文字。
間違うことはない、煌帝国の人間だ。

「随分と私たちのかわいいジュダルちゃんをいじめてくれたみたいじゃない?」

かなり良い身なりをした少女が怒りを露わにした様子で言った。
紅い髪、身を飾り立てる装飾品。
煌帝国の皇族か、上級貴族なのだろう。
少女は辺りに目をやって、彼女の鋭い視線がジンを射抜いた。
ジンはまだ戦おうとしているようで、先程のように両手にルフを集め始める。

「あらぁ?あのジンまだやる気があるみたいねぇ…いいわぁ、私が相手になるわよぉ」

「お気を付けくださいね、姫君」

「大丈夫 任せてぇ。あなたは治療をお願いねぇ」

そう呟くと少女は、簪を手に唱え始めた。
簪に浮かび上がる八芒星。

「悲哀と隔絶の精霊よ、汝と汝の眷属に命ず…我が魔力を糧として我が意志に大いなる力を与えよ!!」

出でよヴィネア!
少女の声に反応するかのように現れた水の竜。
少女は誇らしげに微笑むと、ジンの熱魔法の攻撃を水の膜で相殺した。


「迷宮攻略者…?」

「ああ、ジンの金属器使いだ。…怪我は大丈夫かい、レン姫」

「シンドバッド王…ええ、大丈夫です」

少女の圧倒的な力に、人々の間に動揺が走る。
そこからはもう一瞬のようだった。
先程より多くの水を纏った少女の持つ金属器が形を変えて、一回りほど大きくなったと思えば、その刃がジンの巨体を貫いていて。
ジンの姿が弾けるように消えた。
どうよ?夏黄文、そういって少女は満足げに笑う。

「ウーゴくん!?ウーゴくんっ!!」

青い髪の少年の悲痛な叫び声が響いた。
ジュダルの攻撃で大分消耗していた所為もあるのだろうが、あれほど強大な魔法を使えたジュダルを簡単に瀕死の重症まで追い込んだジンを、たった一度の攻撃で消し去ってしまった少女。

「さすがでしょぉ?夏黄文、ジュダルちゃんの具合はどぉ??」

彼女の視線を追って絨毯に目を移すと、彼女の従者であろう青年が癒術を施していた。
しかし応急処置ほどのものしかできず、ジュダルは目を覚まさない。

「じゃぁ、とりあえず早くいきましょぉ」

少女の言葉に地面に降りていた絨毯が再び浮かび上がる。
そしてそのまま去ろうとしたときだった。
絨毯をさえぎるように、ターバンに乗った青い髪の少年が絨毯の前に飛び出した。
絨毯の上の少女を見据えるその目は、静かな怒りに満ちていて。

「何、あなた?気にくわないわねぇ…私たちは、化け物に襲われていた身内を助けただけよ?」

「違う!!ウーゴくんはみんなを、僕を守るために戦っただけなんだ!!先に手を出してきたのはその人だ!」

「…じゃぁ、あなたがあの化け物の主なのね。じゃぁ、下にいるそいつらも…あの化け物の仲間なのね…?」

「いかがいたしますか、姫君?」

「片づけるしかないわねぇ。閻心、閻体、閻技。やっておしまい!!この子は私が片づけるわぁ」

少女の声に絨毯から3つの巨大な影が現れ、地面へと降り立った。
人間ではない迷宮生物のようなその容姿に、人々が再び逃げ惑う。
私も応戦しようとするが体がちゃんと動かない。

「くそっ!!」

アリババくんたちが果敢にも立ち向かおうとするが、まるで歯が立たず。
負傷していく人々を、為す術もなくただ見守ることしか出来ない自分に腹が立って。

「レンさんっ!」

切羽詰ったようなアリババくんの声に顔を上げると、目前に迫った影と目が合った。
真っ直ぐと射抜くような冷たい目、向けられた切っ先。
やられてたまるか、と重い体に鞭打つようにもう一度魔装を試みたときだった。

「蒼氷剣(バティール・サイカ)!」

「大地の猛攻(ナバリオス・インフィガール)っ!!」

私の背後から、真っ直ぐ敵に向けて放たれた技。
一拍遅れて私の横をすり抜けるように駆け抜けた二つの影。
それは私を背中に庇うように、敵の前に立ち塞がった。

「すいませんレン様、避難誘導に思ったよりも時間がかかってしまいました」

「後はロゼとルシアくんに任せてくださいっ!」


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