誇り高き至高の月 | ナノ

バルバッド編-15


「ウーゴ…くん?ウーゴくんっ!」

青い髪の少年が、ジンに駆け寄った。
必死に呼びかけるが、反応を示さないジンに、血相を変える。

「はははっ、馬鹿だコイツ」

「力を…力を上げなきゃ!」

あの笛はジンの金属器、だろうか…?
少年が笛を介してジンに魔力を送り、少し力を取り戻したジンの背中から氷槍が抜ける。
しかし、相当のダメージを受けたのだろう。
背中に空いた傷は塞がらず、魔力がどんどん漏れ出していた。
それを見て、ジュダルが声を上げて笑う。

「とんでもねぇな、ソイツ。でも効いたみたいだぜ?見ろよ、穴から魔力が漏れてる」

「なぜなんだ!なぜ君は僕たちにこんなことをするんだい!?」

「なんで……?」

青い髪の少年が笑うジュダルに叫んだ。
皆が固唾をのんで見守る中、ジュダルは不思議そうに首を傾げる。

「そういや…なんで戦ってんだっけ?忘れちまった!」

そう言って笑うジュダルに、皆の顔が青ざめた。
ジュダルは続ける。

「まあ、いいじゃねーか!遊ぼうぜチビ!お前もマギならわかるだろ?俺は力が余って余ってしょーがねーんだよ。おかげで毎日がクソつまんねーけど、でも今日はちょっとだけ楽しいぜ?だからもっと俺と遊べよ、チビのマギ!」

異様な光景だった。
無差別に襲う氷槍によって、ボロボロになりゆくスラム街。
主人である少年の指示を聞かず、暴れるジン。
意味もなく対峙する二人のマギ。

「もういいよ、戻ってウーゴくん!戻って!戻ってよ!ウーゴくん!、っ」

少年は懸命ジンに呼びかけるが、ジンは止まることはなく。
自分の命令を無視して動き続けるジンに、少年は困惑を隠せない。

「ウーゴくん!何で戻らないの!?それに…僕はもう力をあげてないのに、ウーゴくんは止まってくれない!」

魔力が尽きかけているのだろう。
とうとうジンは膝をつき、その巨体が地面に倒れる。

「まさかこんなもんで終わりじゃねーよな?」


ジュダルが再び、杖の先にルフを集め始めた。
必死にジンを止めようとしている少年は、それに気づかない。

「ウーゴくん…キミは僕の大切な友達なのさ…だから、言うことを聞いて!」

「おいチビ!こんな機会滅多にないんだ。もっともっと遊ぼうぜ!」

ジュダルの持つ杖先から、青白い雷の球体が飛び出した。
その球体は、真っ直ぐ青い髪の少年目掛けて飛んでいく。
そして、その雷の魂が少年に降り注ぐその瞬間、少年の姿が消えた。

「モルさん!」

近くから聞こえてきた声の方向を向くと、赤い髪の少女と、彼女に抱えられた少年の姿。
赤い髪に、あの素早さ…あの少女はファナリスに違いないだろう。
ファナリスの少女の機転のおかげで、少年に怪我はなかったようだ。

「?何だその女、すげー速いじゃん」

「こっちだ! このイカレ野郎!」

ジュダルの意識がファナリスの少女に移ったのを好機と捉えたのだろう。
アリババくんがナイフを携え、ジュダルに切りかかった。
しかし、その攻撃はジュダルの防御魔法によって防がれる。

「だからぁ、俺には普通の攻撃は効かねーんだよ…」

ジュダルがアリババくんを睨み吐き捨てた、その時だった。
アリババくんのナイフに出現した、光り輝く八芒星。
ナイフからほとばしった炎が、ジュダルの防壁魔法を包み込み突き破る。
何が起こったのか一瞬理解が出来なかったのだろう。
ジュダルは呆然と傷ついた頬に触れて、アリババくんを睨んだ。

「いってーな!…ああ、忘れてたよ…お前、迷宮攻略者だったっけ」

アリババくんは黙って、ジュダルにナイフを向ける。
しかし、相手はマギ。
ジュダルが杖を降れば、抵抗もむなしくアリババくんは吹き飛ばされる。

「誰も邪魔すんじゃねーよ…俺はマギ同士で思う存分戦ってから、このチビをぶち殺してーんだからよ!」

ジュダルが物足りなさそうに叫んだその瞬間。
ジュダルは地に伏していたはずのジンによって、すごい力で吹き飛ばされた。


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