私が私でいられたのは私という仮面を被っていたから(微糖)









お題サイトDOGOD69様より












"戦場の鉄姫"。








私に付けられたあだ名。

皮肉にもほどがあるでしょう。



一つ戦が終われば、血を頭からかぶったように髪も顔も着ている服だって濡れてしまう。




血は鉄のような臭いがする。

背負っている火縄も鉄。



その姿からなのか、いつからか私はそう呼ばれるようになった。






「撤退!撤退だーっ!!」





火縄を握ってからもう数年経つ。

それと同時に人を殺しだしてからもう数年経つ。


数は数えていないからわからないけれど、私もすっかり大量殺戮者だろう。



「燐、撤退するぞ!」

「孫市」

「ここはもうやべえっ、撤退だ」

「じゃあ、先に行ってみんなを導いて。私はもう少し此処で敵を寄せ付けてから撤退するから」

「駄目だ。そんなの許さねえ」

「大丈夫よ。それに此処で敵を引きつけておかないともっと味方に被害が出るわ。私ならまだ全然余裕だから孫市は味方を守ってちょうだい」

「だったら、俺が此処に残る。お前は」

「駄目よ。頭領がこんなところに残ってどうするっていうの。撤退後でみんなばたばたしていて統制が取れていないはずよ?貴方がまとめないでどうするの」

「けどよ、」

「もう!早く行きなさいよ!私も危なくなったらうまく逃げるから!!」


「・・・・・・ちっ、死んだら許さねえからな!」

「任せといて」




苦渋の選択ってところかしら。


今回の戦で、私たち雑賀集は完敗した。

味方は散り散り撤退をしているけれど、生存者は多くはないでしょうね。


それでも、一人でも多く生き残っていてほしいから、私は此処で殿を努めることにした。

きっと、ここで敵の目を引きつけておけば、撤退も楽になるだろうから。




「さて、どのくらい保つかしら」



でも彼との約束は守らないと、ね。

出来る限り持ちこたえて、撤退するときがきたときには迅速に的確に。


これ以上、彼を悲しませるわけにはいかないのだから。


彼は、私と違う。

鉄なんかじゃない、暖かい人間なのだから。



「いたぞ、あっちだ!」

「雑賀集の残党だ!多いぞ!」

「かかれー!」



「・・・行かせない」



これ以上、彼を苦しませない。


孫市はこれからも真っ直ぐに進むべき道があるんだから。

後ろを振り向かず、下を向かず、ただ真っ直ぐに。



「ぐっ・・・」

「く、曲者っ」

「・・!」



そのためなら、どんな局面でも笑顔で彼の背を押してみせるわ。


それがどんなに、つらくてもね。



「孫市!」

「・・・燐!」



あれから二刻弱。

無事、雑賀集の撤退の報を聞いた私は頃合いを見計らい撤退場所へと走った。


そんなに遠くない場所ではあるけれど、奥まった場所にある廃寺のような建物は身を潜めるにはもってこいの場所だった。

おそらく敵もまさかこんな近くに身を潜めているとは思わない。きっともっと遠くを調べていることだろう。

そして、敵の動きが静かになったところで、本拠地に移動すればいい。


・・・きっと孫市の案ね。




「無事でよかった」

「当たり前。私を誰だと思っているのよ」

「へえへえ、燐様だよ」

「ふふ」


廃寺の奥、少し煤けた座布団に孫市は胡座をかいていた。

手には火縄を持っており、きっと手入れをしていたところだろう。


「で。状況は」

「撒いたから追跡されていることはないでしょうね。それと敵の後詰めはここ周辺を素通りしてもっと遠くを調べているところ」

「当たり、だな」

「ええ。あなたのおかげよ」

「いや、お前が踏ん張ってくれたおかげだよ」


へらへらといつものように笑っているけれど、何となくその笑みには力はない。

まあ、気付かない人は気付かないだろうけれど。この人はこういうのは得意だから。



「孫市、もうしばらく戦はないわ。火縄を離しても大丈夫よ」

「いや、百発百中とは限らねえ。もしかしたらここが見つかる可能性だってあるだろ」

「そのときは私が出るわ」

「お前だけじゃ駄目だ。俺がやる」

「でも、」

「俺はもう仲間を失いたくねえんだ!!」

「!」


剥がれた笑顔を仮面。

へらへらしている彼の姿はもうない。


目の前にいるのは、何とも情けない顔をした一人の人間だった。




「・・・燐、俺はどうすればいい」

「さあ、孫市が進みたいと思う方に進めばいい」

「また犠牲が出るかもしれねえんだぞ」

「それはみんな承知のことよ」

「・・・」

「それをわかっててみんなあなたに付いてきているの」



幼子をあやすように優しく彼の頭を撫でると、ふっと呆れたような笑みを浮かべられた。

そして、呟くような小さな声で情けねえな、とこぼした。



「いつもお前に助けられてばっかだな」

「そりゃあ?"戦場の鉄姫"様ですから」

「感謝してるよ」

「その言葉だけで十分よ」



少しだけ撫でる力を強くすると、痛ぇと言われた。



「けどよ、その名前どうにかなんねえのかな」

「え、どうして?」

「もっと似合う名前があんだろうが」

「どうかしら」



まさか、孫市がそんなことを思っているとは思わなかった。

自分でそう考えたことがなかった私は、イマイチぴんとこなかったから、例えば?と聞いてみたところ、はぐらかされるだけだった。

何度か問い詰めてみてもあれよあれよとはぐらかされるものだから、諦めるしかなかった。

それを拗ねたと見られたのか、今度は私が頭を孫市に撫でられた。



「なあ、燐」

「なによ」

「これからも俺に付いて来てくれるか」

「勿論よ。あなたが死ぬまで」


「はは、いい言葉だな」





もう、弱気な彼はいなかった。


いつもの飄々とした顔で、真っ直ぐ先を見つめていたから。





「燐、ありがとうな」


「いいえ、どういたしまして」











end

(鉄仮面の鉄の女)

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