封じたのは想いだけ(微糖)
お題サイトDOGOD69様より
ドウン、ドウン
ワアァアァアアア
ガチャリ、ガチャリ
広い広いこの大地には、かつて小さな動物が静かに暮らして、色鮮やかな絨毯のように花々たちで埋め尽くされていた。
それが、一月前。
けれども、苛烈なまでの勢いはそれらを飲み込み、小鳥たちのさえずりは銃声に、童たちの笑い声は断末魔に、そよ風に花々が揺れる音は鎧が揺れる音に変わった。
たった、一月前のこと。
「燐」
「・・・頭領」
「よせよ、今は戦の真っ直中じゃねえ」
「すみません。孫市さん」
あれほど美しかった大地はどこに去ってしまったのか。
いや、奪ったのは我々だ。
「今日の戦、素晴らしいお手並みでした」
「お前だって負けてねえだろう」
「私は貴方ほどではありません」
「怪我はしてねえか」
「かすり傷程度です。まだ戦えます」
「そうか」
「ええ」
「・・・帰るぞ」
いつからだろうか。
一歩前を歩く彼の背に、火縄が見られるようになったのは。
火縄を背負う彼の背を追う私も火縄を握るようになったのは。
「燐、絶対に帰るぞ。俺たちの家に」
「ええ、勿論」
「それまではすまねえ。何も言わねえで俺に付いてきてほしい」
「はい」
本来の夫婦の姿とは違うかもしれない。
けれども、絶対に振り返ったりはしない。
絶対に後戻りもしない。
「頭領、これからもよろしくお願いしますね」
「何だよ、いきなり」
「ふふ、いいじゃないですか」
「ったく」
いつか、また。
穏やかな日だまりの下、
ふたりで歩けることを想い。
甘く、優しい
毎日に戻れるように。
それまでは、
心の奥底に。
必ず帰るために。
end
(それが妻の役目)
[ 21/71 ]
[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]