とある街角にて(甘)
お題サイトDOGOD69様より
ルージュが一際艶めく夜。
そんな日には、
ぜひ足を運んでは如何かな?
「いらっしゃい・・・おや」
「毛利さん、今晩は」
どこにでもあるような夜の街の一角。
ぎらぎらと煌めくネオン街に埋もれるようにひっそりとその店はあった。
「いつものをくださいな」
「畏まりました」
落ち着いた照明と音楽。
マスターの好みなのか、どれもどこか落ち着く雰囲気をかもし出している。
店を見渡すと彼女以外に客はおらず、店にはマスターと思われる黒髪の男と彼女のみ。
特に何かを話すわけでもなく、店には静かな音楽と彼女が飲んでいるカクテルの氷の音だけ。
静かなときが流れた。
「ねえ、毛利さん」
「何だい?」
「今日もあの夢を見ました」
「昔の夢かい?」
「ええ、やっぱり私はお姫様で、やっぱり貴方はお殿様でした」
「そうか、私の見る夢と同じだね」
いつからだろうか、時々見るこの夢が、自分たちの前世あるいはそのまた前世ではないかと考えるようになったのは。
静かな茶室にたくさんの本。
そこにはカクテルを飲むその女が着物を身に纏って茶を飲んでおり、グラスを拭くバーテン服の店主が冗長に歴史を彼女に語っている。
「夢の中の貴方も、今の貴方も変わらず本をたくさん持っていて。そして延々と私に歴史のことを語っていましたのよ」
「聞き流しているであろう君に、冗長にね」
「ふふ」
来世でも出会えるようにと祈ったのだろうか、この小さなバーで二人は再会を果たした。
数百年ぶりの再会。
かといって涙を零すこともなければ、抱き合い再会を喜ぶこともしなかった。
さも当たり前のように、隣にいては時折話に花を咲かせる。
まるで前世の続きのような、穏やかな日々。
「燐」
「何です?」
「実は言いたいことがあるんだ」
「あら、やっと言う気になったのですか」
「はは、待たせたね」
「ええ、数百年間」
「数百年、か」
「そうですよ。前世の貴方は、歴史を綴るだとかどうとかで私なんてそっちのけ。今の貴方は、この小さなバーを維持するのに精一杯」
「すまない」
「別に責めてるわけじゃないのですよ?とっても嬉しいの」
店主が出したカクテルに浮かぶ氷を弄びながら、笑みを浮かべる彼女。
その笑みは本当に嬉しそうで、でも悲しそうでもあった。
「ごめんなさいね、前世では貴方の言葉を聞く前にいなくなったりなんかして」
「病は君のせいではないよ。それに、現世でまた会えたんだ。きっと前世で叶わなかった分、神様が与えてくれたんだよ」
「ならその神様に感謝しないとですね」
前世、彼女は病に倒れ、元就からの愛を受ける前にこの世を去った。
あれだけ刻を共にしていたのに、と嘆くばかりの元就は、来世でもし彼女と再会が出来たらそのときこそはと願い続けた。
その想いが通じたのか、偶然か運命か彼らは再会を果たした。
とある街角の、小さなバーで。
「燐、ずっと愛している。数百年間ずっと想っていた」
「ええ、私もですよ。数百年間ずっと」
「ええと、そうだなあ。まずはお付き合いをしてほしいんだ。勿論だけれど結婚も考えながら、ね」
「うふふ、また何時も通り冗長ですこと」
「ええっ、そんなつもりはなかったんだけれど」
「冗談ですよ」
「・・・困ったなあ」
「ふふ」
「燐、また一緒にいてくれるかい」
「ええ、勿論」
end
(いつか、また来世で)
(ずっと愛しているよ、燐)
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