愛吟するは少女(ほのぼの)





「丸竹夷二押御池」

「姉三六角蛸錦」

「四綾仏高松万五条・・・」





その声に、



振り返ったその瞳に、




惹き込まれたのかもしれない




「おーい、孫ちゃん」

「今日も毬で遊んでいたのかい」

「そうだよ。孫ちゃんも遊ばない?」

「いーや、やめとくよ。世の女性たちが待っているからな」


ふーん、とさも興味なさそうに答える少年のような風貌の少女。

その薄い反応を特に気にすることなく、どっこいしょと近くに座る男。

男の背には、この辺りでは珍しい火縄銃が背負われていた。


「なんだよ、孫ちゃん。世の女性たちが待ってるんじゃねえのか」

「んん?餓鬼は気にしなくてもいいんだよ」

「ははーん、わかった」


あたしの姉ちゃん待ってんだろ、と睨む少女に

違えよ、と視線を逃がす男。


「童歌、孫ちゃん覚えた?」

「そりゃあ毎日お前が歌ってんだ。嫌でも覚えるっつの」

「ふーん、」



「丸竹夷二押御池、」

「姉三六角蛸錦、」

「「四綾仏高松万五条」」



「はは、本当だ。しっかり覚えてる」

「まあな」

「孫ちゃん、女の口説き文句もたくさん覚えられるもんな。こんくらい簡単だろ?」

「あれは瞬間に思ったことを口にしてるんだっての」

「どうだかね」


穏やかな表情を浮かべて冗談を言い合う二人。

そのせいか空気もどことなくやわらかく、戦中とは思えなかった。


「ねえ、孫ちゃん」

「ん?なんだ?」

「あたし京に行ってみたいな」

「京にはいい着物も化粧道具も揃ってるからな。もしかしてお前も?」

「違うよ!この歌、元は京の童歌なんだ」


それに、着物とか化粧道具とかそんなの私ほしくないやい!少しだけ頬を染めながら否定した少女。

垣間見えた女の表情に孫市は口笛を吹いた。


「なあ、燐。お前そうしてた方が可愛いぜ?」

「なっ、バカ言うなよ!あたしにまで軽口言うんじゃないよ!」

「はは、ますます赤くなってやんの」

「・・・からかっただろ」

「さあな」

「あっ、待て!逃げるな!」

「おいおい!前より遅くなったんじゃねえか?」

「なんだとー!今に見てろ!あたしが本気を出せば孫ちゃんなんてすぐ捕まえられるんだからな!」

「もし捕まえられたら、京に連れてってやるよ!」

「待てー!」




静かな町外れに

今日も聞こえるその声は

淡い着物の少女



その澄んだ声が京に

流れるまで数刻


end

(今日も惹かれる)

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