ゆるりゆるり、愛染(裏)






ひどく情に駆られるとか


壊してしまいたいとか



そんな激しい感情なんかではなくって、



きっとこれは、愛





「燐、何しやがる」

「たまには氏康様をこうするのもまた一興かと」

「くだらねえこと言ってねえで、さっさとほどきやがれってんだ」


今なら御免なさいで許してやらあ、なんて可愛らしいヒト。

だから、私は貴方に溺れてしまっているのかもしれない。


「ねえ、どこがお好きなんですか」

「お前さんよお・・・」

「はい?」

「・・・なんでもねぇ、気が済むまで好きにしろ」

「うふふ、はい」


静かに羽織りを氏康様の肩から床に落とすと、衣擦れの音がして少しどきりとした。

自分でやったことなのに。


着流しの合わせから見える胸元にも思わず緊張する。


「おい、どうした?」

「え、いえなんでも」

「何お前さん一人で顔を赤くしてやがる。脱がしたのはお前さんだろ?」

「ええ、そうですけれど」


さっきまで珍しいお顔をしていたのに、気が付いたらいつもの余裕の笑みを浮かべている。

なんだか、少し負けた気分。


「あたたかいですね」

「そりゃあ生きているからな」

「でも傷だらけですわね。お顔とおんなじ」

「そりゃあ守るもん守ってっからな」

「ええ、けれども氏康様が戦場に赴く度、いつも心配しているのですよ。貴方が無事に帰ってきてくれるか・・・どんなに嘆いてもそれがきっと定めなのですけれども」

「たりめーだ。それが城主の仕事ってもんだろ」



傷だらけのお身体に触れると、とてもあたたかい。


まるで貴方のお心のようです。

きっとそんなこと言えば、また意地悪なお言葉が返ってくるのでしょうから、言いません。


「・・・っ」

「驚きました?」

「そりゃあな、お前さんいったい何処でそんな入れ知恵してきた」

「うふふ、存じ上げませんね」

「単純など阿呆だあな・・・っ」


あくまで真似事なのだけれども
氏康様が私に触れるように触れてみると、ほんの少しお身体を震わせる。

それに気をよくしてしまう私は、貴方のおっしゃるとおり単純なのかもしれませんね。


「おい、燐」

「きゃっ・・・」

「交代だ」


私の上に覆い被さる氏康様。

そのお顔はいつもの意地悪なお顔で。


向こうには天井。



「な、なぜ縄が」

「んなもんお前さんの力なんてたかが知れてらあ。ちょいと力入れたら外れちまったよ」

「私を謀りましたね」

「まんまと騙されてるお前さんが悪い。まあ、そこがお前さんの可愛らしいとこなんだろうがよ」

「そんなあ、いつから」

「悪いが最初っからだあな。まあお前さんにしては頑張ってた方だ、礼は受け取ってくれるよなあ?」

「お、お優しく」

「中途半端に煽ってくれやがって。残念だが、そうはいかねえな」


覚悟しろよ、だなんて。


意地悪なお人。


やっぱり貴方にはかなわないのかしら。


「おい、何考えてやがる」


いつもは武器を握る無骨な手が、今は私を愛でる。

狭いそこを押し拡げるように。


「なにも・・・っ」

「んなツラしといて何もはねえだろう?」

「あっ、ああっ」

「なあ?」

「ん・・・っあ、あなたには、かなわないのかしら、っああ」

「は、そういうことかよ。随分可愛いこと言ってくれるじゃねえか。まあ、それだけ言えりゃあ余裕ってことだよなあ?」

「えっ、お待ちを・・・っ」

「待たねえよ」







緩やかに、ときに激しく。








end

(愛に染められる)

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