何を迷う必要がある(甘)
お題サイトDOGOD69様より
不安で眠れない夜には、
そばにいてください。
貴方を好きすぎて、
心臓が止まってしまいそう。
毎日、貴方を想って、
枕を濡らしています。
「どあほうが」
戦の真っ直中。
夜戦はないだろうと践んだ氏康はすっかり疲弊した北条軍を休ませようと野宿することにした。
準備も終わり一段落しようとどかりと座った矢先、風魔小太郎がいつもの笑みを浮かべながら一枚の紙を渡してきた。
何事だと思い目を通すと、小田原城に置いてきた嫁の日記であったのである。
「クク・・・義元の妹はどうやら寂しいようだぞ」
「けっ、なに持って来やがるんだ」
「随分と憂いていたようだぞ。クク、どうする?氏康」
「おせっかいなおばけさんだぜ、ったく」
おそらくこの日記はコイツがカミさんに内緒で勝手に持ってもんだろう、と氏康はすぐに思い浮かんだ。
自分の気持ちを押し込んで俺を待っているような女だ。
こんな日記なんざ書いてやがるたあな。
「ちっ、明日朝イチで片付けるぞ」
「作戦変更か?氏康」
「愛しのカミさんが泣いてんだ。たまにゃあ我が儘聞いてやんだよ」
氏康は頭をぼりぼり掻きながら、戦場の地図を取り出した。おそらく朝イチで片付ける方法を考えるつもりなのだろう。
その顔はとても真剣で、いつも吸っている煙管も端に寄せてああでもないこうでもないと唸っている。
「おい、おせっかいなおばけさんよお。てめえには前線行かせるからな」
「クク、混沌よな」
「自業自得だ、どあほう」
ついでだ、成田のせがれも前線に置こうかなどと考えていると、あれよあれよと陣形が完成していく。
しかし、何だか今ひとつ腑に落ちない。
いろんなパターンの陣形が思いつくものの、どれもいまいちこれだと思うものがないのである。
これでは人数が少ない。
これでは犠牲が多い。
これでは、時間がかかる。
「チッ」
「何を迷う?燐が泣いているぞ?」
「てめえは黙って明日の準備でもしてろってんだ」
「クク・・」
せいぜい、悩め。
再び嗤うと風魔は消えた。
「どうせ、成田のせがれとでも考えたんだろうが。ばればれなんだよ、どあほうが」
氏康は再度地図とにらめっこしはじめた。
愛しのカミさんの元へ、帰るために。
その涙を自身の手で拭ってやるために。
そういや、この間成田のせがれと簪がどうだこうだ言ってやがったな。
一度、帰路の途中で簪を買ったことを思い出した。
たまには買ってやるか、と頭の片隅に入れておきながら筆を取る。
隅に置いた煙管を一瞥し、氏康は笑みをこぼした。
勝利の確信の笑みを。
end
(さっさと片付けちまえばいい)
[ 40/71 ]
[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]