私宛ての恋文を、貴方の部屋で見つけたわ(甘)







お題サイトDOGOD69様より








ひゅうひゅうは風の音

カタカタはあの子の爪の音

すりすりは私の着物の音




「あら、まだ掃除が終わってませぬ」



いつものよく聞く音のする方へ目を向けると、氏康様が飼っていらっしゃるわんちゃんがいました。



「ここは私が掃除する場所です。今、使いも払っているのですよ」


あなたももう少し出払いなさいと言っても、いつものように、はっはっと舌を出してお座り。

お前が指図するんじゃない、と言いたげな顔をしながら。


「私は今、気が良くないのです。あなたをこれで打つかもしれませんよ」


試しに振り上げてみても、お前に出来るわけがないとごろりと横になる。

氏康様にはきちんと懐いているのに。


「氏康様ならいらっしゃいませぬよ。あなたも見たでしょう?一月前、私を置いて戦に出たこと」


屑籠からかさり。

紙の音。

あらら、いけない。落としてしまったわ。


「私の名前・・・?もしかして戦の配置など書かれているのかしら」



結局彼は私を戦場には連れて行ってくれなかった。

わんちゃんと私、ふたりぼっち。

私だって戦えますのに。



「まあ、ご覧になって。このくしゃくしゃ、私宛の文ですよ」



つい大きな声を上げてしまう。

だってしょうがないじゃない、あのぶきっちょな彼からの文ですもの。

わんちゃんの大きな背に私の背を預けて座ると、何かあったのかと彼がこっちを覗いている気がした。



「あなたもご覧になってちょうだい?・・・燐。お前を今回の戦場に連れて行く気はさらさらなかった」



お前は黙って、そいつの面倒と、掃除でもしてろ。

お前まで戦場に出るこたねえ。倅共があーでもねえこーでもねえ言い合ってやりくりしてる。


出陣前に食った飯がうまかった。世話になっている。

この間は悪かった。お前の前では煙草は控えるようにする。お前ももう少し香を控えるなら、の話だが。


おとなしく待ってろ。

すぐ終わる。 




「ふふ、ですって」


わんちゃんの頭を撫でると、私の嬉しい気持ちが伝わったのかなんだかこの子も嬉しそうな顔をした気がした。


「帰りが待ち遠しいわね」


わん、一つも鳴いてくれない彼だけれど、なんだか同じことを考えているんじゃないかしら。

きっと、彼の側に寄って、彼に頭を撫でられたいに違いない。




「ねえ、帰って来たらたくさん甘えましょうね」






それまでおあずけ、ね?









end

(忍に文を持っていってもらおうかしら)
(お料理の練習もしないといけないわ)
(帰ってきたとき一番においしいお料理を)

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