じわじわと広がってくる意識(甘)







お題サイトDOGOD69様より











※現パロ











街外れにある良く言えばモダン、悪く言えば時代錯誤な店。


こじんまりとしたそこはなんだか不思議な雰囲気を放っていて、客足は少ないはずなのにお店が潰れる気配はない。


いつ見てもお客さんが入っているところなんて見たことなくって、気になるけれど入ろうと思うと気がひけるような店。



「あ・・・」



いつものように夕暮れにそこを通ると、黒いエプロンをした男の人があの店の前を箒で掃除していた。

ぴしっとした格好をしているのに、黒髪のあの人はどこか力抜けていてそのアンバランスさが少し笑えた。


ばれないようにその人を観察していると(完全に不審者かもしれないけれど)掃除を終えたのかあの店の中に戻っていった。



「・・・」


あとでからかってみようかな、なんて捻くれた考えを頭の片隅に隠しながら、古ぼけた扉を押した。


「いらっしゃい」

「あ、毛利さん。こんばんは」



カランカランとこれまたなんだか懐かしい音が鳴った。

鐘の音に気が付いたのか、カウンターにいた毛利さんはいつものふにゃっとした笑顔が返ってきた。

こじんまりとした店にはコーヒーの良い香りが漂っていて、もしかしたら挽きたてなのかもしれない、ナイスタイミング私。



「信長公記、織田信長という歴史、戦国軍事学・・・前より増えてる」


コーヒーと今日の甘味を注文して毛利さんが奥に(厨房?)に消えるのを見送ってから、暇つぶしに本棚を眺めることにした。


新刊コーナー(らしい)を見ると珍しく小説が置いてあった。相変わらず歴史小説なんだけれど。



「関ヶ原、菜の花の沖、覇王の家」

「それ、面白いよ」

「え?」


並んでいるたくさんの本たちを見ていると、ふと声をかけられた。

声をかけたのはもちろん毛利さんで、ぼうっと見ていたからか思わずビクッとしてしまった。


「ああ、すまない。驚かせてしまったね」

「いえ、こちらこそ大げさに驚いてしまって」


トレイに乗ったコーヒーとケーキを置きながら、毛利さんはもう一度すまないと言った。


「あの、覇王の家ですか。おもしろいって」


なんだか気まずい雰囲気が流れそうな気がしたので話を逸らすと、途端に嬉しそうな顔をした。


「そう、覇王の家は徳川家康公の一生を書いた小説なんだけれど、場面が変わる度にどんどん興味が惹かれていくような文章できっと歴史に詳しくなくても次々読めると思うんだ。それだけじゃなくて――」


いつもののんびりはどこにいったのか。

話す姿はまるで少年のようで、瞳がきらきらと輝いているように見える。

私が黙ったのが悪かったのか、はっとした後また謝られた。


「すまない、つい熱くなってしまって」

「いえ。毛利さんがそこまで言うんですもん、興味が湧きました」

「そうかい?ならよかった」

にっこり微笑んだあと、毛利さんはそそくさとカウンターに戻っていった。

とりあえず出されたケーキを食べることにした。


「・・・おいしい」


何のソースなんだろう。



何度も通っているけれど、このケーキは見たことがなかった。おそらく新作なんだろう。

ケーキにかかったソースは少し甘酸っぱくて、ケーキの甘さとうまく合っていた。


「毛利さん、これ借りていってもいいですか」

「うん、構わないよ」


さっき毛利さんに教えてもらった覇王の家を手に持つ。

なかなか厚みのあるそれをいつ読み終わるかはわからないけれど、とりあえず借りてみることにした。

するとまた毛利さんはふにゃっと笑った。


「きっと君も気に入ると思うよ」

「読み切れるか心配です。すんごい厚いんですもん、これ」

「ふふ、大丈夫」




感想、聞かせてね。




ふにゃっと笑う毛利さんをなんだか直視できなくって。


目の前にあるケーキを食べることに集中した。





ケーキの味はすっかりわからなくなっていた。






end

(ケーキおいしいかい?)
(・・・(コクコク))
(ふふ、よかった)
(・・・っ)

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