涙は色の抜けた血なんだよ(微切)






お題サイトDOGOD69様より








天正六年、木津川口。


信長公の苛烈な戦は、瞬く間に我々を飲み込んでいった。


後世にこの戦は歴史として残るだろう。

だが、ここで死んでいった者達の名は後世に残るのだろうか。


人の死に是非も無し。




この世もなのだろうか。







「痛いかい?」



雑賀集壊滅。

力を貸してくれた雑賀集はほぼ壊滅状態だと、伝令が伝えてくれた。


向かわなければいけない。

たとえ、私が総大将であろうと。


息切れ切れに走ると、焦げて使い物にならなくなった小さな船の上に、小さな影を見つけた。


「・・・元就公。いいえ、どこも怪我などしておりませぬ。向かってくる敵は皆、殺しましたから」


涙を流しながら

淡々と小さな影がこぼす。


ああ、私は彼女の幸せすら守れなかったのか。


「だって涙を流しているじゃないか」

「なぜか止まらないのです」



雑賀集の花。

雑賀の女神。


雑賀のたった一人の乙女。




噂が全国各地を回ったほど、彼女は強く、優しく、雑賀集にとって大切な存在だった。

逆に、彼女にとっても雑賀集は大切な存在だった。


「痛いかい」

「いいえ」

「私はとても痛い」

「だから涙を流しているのですか」

「ああ、とても痛いよ」



彼女の涙を近くで見ると

もっと痛そうに見えて

私の涙がもっと溢れる


止まらないんだよ




「ごめんね、痛かろう」

「元就様が謝ることではありません。雑賀の責任は雑賀。貴方は我々にお力を貸して下さったじゃありませんか」

「君の笑顔を奪ってしまった」




私がもっと早く駆けたら

私がもっと策を練れば

私がもっと

私が


私が




「痛むかい」

「痛くなどないのです。なぜ、聞くのです」

「それはね」






今の私には君の涙を拭ってやることしかできない。


愚かな私。


心から血を流す君。










涙が指を伝った。


end

(涙は心が傷ついている証拠だから)

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