少年少女 すれ違うたびに思いを馳せる(甘)






お題サイトDOGOD69様より






さくらひらひら


こんな日はあの日を思い出す。





「春うらら 君が袖ふる…」

「大殿ーーーーっ」



ばたばた、足音が聞こえてくる。

その音を聞いて少し頬を緩めるも、口からでてきたのはため息。


「輝元、私は死んだはずだが?」

「しかし、大殿!一大事なのです!」


部屋に滑り込むように入ってきたのは毛利輝元。

死んだはずである毛利元就の孫にあたる。


「どうしたんだい?そんなに慌てて」

「実は…」


輝元の口からでてきた言葉は好いた者がいる。

そこで、アプローチの仕方を元就に教えてほしい、とのことだった。


「お前にはお前の伝え方があるだろう?」

「しかしこの輝元、女性に想いを寄せるのは初めてゆえ、どのようにすればよいのかわかりませぬ〜」

「困ったなあ…」

「おや、元就様。せっかくですからお話してみてはいかがです?」

「燐」
「奥方様!」

「私もお聞きしたいものです。あなたの初恋のときのお気持ちを」

「ええっ、困ったなあ・・・」

「奥方様もこのようにおっしゃってますゆえ、どうかこのとおり!」


くすくす笑っている燐、毛利元就の妻である。

元就の頭を掻きながら困る姿に微笑みながら、先ほど山の中から手にした恋愛小説を読んでいる。


「燐、助けておくれよ」

「あら、良いではありませぬか。孫の恋路は応援しなくては」

「だがねえ・・・」

「輝元、元就様が初恋をしたのは貴方と同じくらいのときですよ」

「本当ですか!?」

「ええ、真です」

「こらこら」

「元就様がお話にならないんですもの。少しくらい輝元にも話してあげようかと」

「ふむ・・・しょうがないなあ」




少しだけだよ、桜を眺めながら少し言いづらそうに話し始めた。




「父上、父上」

「元就、そんなに慌てて何か起きたのか?」

「実は・・・」


時は遡って、元就がまだ子の頃。

父の元へ駆け寄り、恋をしたのだと息切れ切れに伝えた。


「元就、それはお前が考えねばならぬ」

「何故です」

「それはお前にしか出来ぬことだからだよ」



元就は子どもながらとても秀でた子であった。

兵法のみではなく、文学も政にも興味を示し、勉学に励んでいた。


しかしそんな元就でもわからないことに遭遇したのである。



「ちょっと!そこは私のお気に入りの場所よ!」

「え?」



普段はしないことだが、ふと桜の木に登ってみたくなった。

登って座ってみると案外居心地がよく、せっかくだからここで書物を読もうと決めたのである。


集中して読みふけっていると下から大きな声がして、驚いた元就はバランスを崩し、木の下へ落下した。



「ちょっと!大丈夫!?」

「あはは、大丈夫だよ。私こそすまない。君の場所だったのだろう?」

「それはそうだけど・・・」


大きな声の持ち主。

それは自分よりも小さな女の子だった。


「あの、これ」

「?」

「私のお家、お団子屋なの」


よかったら食べて、小さな女の子は小さな声でそう呟いて、駆けてしまった。

気が付くともう小さな女の子は、小さな点くらいの大きさまで遠くなっていて、







「名前、聞いておけば良かったな」








「大殿!その後、その女性とはどうなったのですか!?」

「どうなったもこうなったさ」

「え?」

「元就様ー」

「はいはい、今開けるよ」



いつのまにか姿を消していた燐。

気が付くと、障子の向こうから声が聞こえるではないか。


元就が開けると、大きなお盆を持った燐がいた。


お盆の上には三人分のお茶と、お団子。



「ふふ、昔話をするものですから、食べたくなるんじゃないかと思って」

「よくわかったね。ありがとう」

「昔、毎日召し上がっておりましたものね」

「毎日食べても飽きないくらいおいしかったんだ」

「本当にお団子だけですか?」



「あのー・・・大殿」

「ん?何だい輝元」

「こうなった、というのは・・・」



「初恋は実らないというのは、嘘さ」











end

(今日も来たのね、お武家様)
(まあね、お団子三本おくれ)

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