プラトニックはもう終わり(微裏)
お題サイトDOGOD69様より
「元就様、元就様」
鈴のような声と小さな足音が城に聞こえた。
ぱたぱたと走る少女の目的地は、この城の城主である毛利元就の元であった。
「ん、おいで」
「ああっ、またこんなに散らかして!」
「ごめんね、今度からはあまり散らかさないように気をつけるよ」
「もうっ」
親子のようにも見える二人。
しかし、燐はれっきとした元就の妻。
子はいないものの夫婦関係は円満で、元就が不在のときにはきちりと城を守る妻の任を全うしていた。
(親子…いや孫に見えるのは某だけか)
(いや、間違いではない)
元就を支え、妻としての役目をきちりとこなしていている燐。
しかし、元就と歳が随分離れているためか、噂は絶えることはなかった。
政略結婚で毛利家に嫁いできた燐。
子を宿せないのであれば、毛利家に嫁いだ一番の役目が全うできていないのではないか。
親子ほどに離れた燐との子を元就は望んではいないのではないか。
次々と燐に容赦なく襲いかかる声。
終いには文にも書かれるようになってしまった。
「元就様、子を宿すにはどうするのですか?」
「…いきなりどうしたんだい」
「父上が、燐は元就様のところに嫁いだら、元就様との子を宿す宿命があるのだとおっしゃってました」
先ほどの軽やかな声はどこに消えたのか、まっすぐと元就を見つめ、ゆっくりと少し悲しそうにぽつりとこぼした。
燐との噂を聞いていなかったわけではなかった。
しかし、焦る必要もない。
自分たちのペースでゆっくりと進んでいけばいいと元就は考えていた。
(どうやら燐は随分気にしていたみたいだね)
ふだんは気にする素振りを微塵も見せず、つねに笑顔でいた燐。
自分だっていつまでも子どもではない。
元就との子を望んでいないわけがない。
悩みに悩み続け、元就に自分の気持ちを打ち明けることにしたのであった。
「私は元就様の子でしたらほしいのです」
(ああ、可愛いなあ)
顔を真っ赤にしながら、少しずつ自分の胸の内を伝える燐の姿に、元就は頬が緩むのを隠せずにいた。
「ん、む」
「燐・・・」
赤く小さな唇を自分の口で塞ぐと何とも言えない征服感で満たされた。
小さな身体を抱きしめ、自分とは違いさらさらとした髪を撫で、時折漏れる吐息を聞く。
元就は自分の欲で壊さないように、燐を愛でた。
「これは接吻、好いた者同士がすること」
「接吻・・・?」
「そう」
「頭がくらくらします」
「嫌だったかい」
「いいえ、元就様となら嫌なことなどございませぬ」
「あまり可愛いことを言うものではないよ」
くらりとしたのは燐だけではなかった。
自分の醜い感情を必死に抑えこんで、平然の笑みを浮かべる元就。
小さな口から紡がれる言葉一つ一つが、凶器のようだと心の中で苦笑する。
「あの、これで子はなされるものなのですか?」
「うーん、そういうわけではないんだけれどね」
「難しいのですね、子を宿すのって」
「なに、焦ることはないさ」
「うーん」
「燐、お返事は?」
「・・・はーい」
すっかり拗ねてしまった燐を愛おしく思いつつ、腕の中にいる燐をより強く抱きしめた。
「燐、もう一回口吸いをしよう」
「口吸い?」
「接吻、だよ」
「お好きな人」
「君とならいくらでも」
小さな唇を塞ぐとくぐもった声が漏れた。
その声に口角を上げながらも、逃げる舌を絡め取っては、歯列を舐め上げる。
そのたびに、ぴくりと動く小さな身体。
(クセになりそうだなあ)
くちゅり、と水音に身体が震えた
end
(私の子猫ちゃん)
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