なにしてんだろう、俺。
いつの間に屋上にきたんだ?
その前に、手に持ってるパンはいつ買ったっけ?
なんで目の前にニールがいるんだ?






覚えているのは、ニールが「屋上で飯食おうぜ」と言ったことと、ミハエルが「じゃあ俺飯奢らなくていいの!?やった!じゃあなハレルヤー!」と走り去ったこと。
とりあえずミハエルは後でシメる。…はいいとして、

「なに突っ立ってんだよ。ほら、食おうぜ!」

好きなやつに誘われ一緒に昼飯という、わけのわからない状況。これ、どうしたらいいんだ?
とりあえず言われるがままニールの隣に腰を下ろす。パンの袋を開け、もそもそと食い始める。
ああ、そういえば話があるんだっけ。それを聞かないと。

「それで、話ってなんだ?」

自然に、自然に、と自分に言い聞かせて尋ねる。果てしなく体力を使う作業だ。正直逃げたい。

「あー、ああ、そうだったな」

なんなんだその曖昧な返事は。何か言い難いことなんだろうか。
…もしかして、見てるのバレたか?気持ちわりーから見るなってことだろうか。
それならこの曖昧な返事や表情も納得できる。ニールは基本的に誰にでも優しい奴だから、文句や拒絶も言い難いんだろう。
少し、いや結構悲しいけど、これ以上嫌われたくない。俺から謝ればまだましかもしれない。
今まさに口を開こう、とした瞬間、

「ハレルヤってさ、あいつと仲いいのか」

ニールに先を越された。ていうか、あいつって誰だ?

「あいつ?」
「ほらあの、青い髪のやつ」

青髪って、ミハエルのことか。それにしても。

「まあ、友達だしな。話ってそれか?」

わざわざ屋上に呼び出してまでする話ではないだろうに。ミハエルがなにかしたのだろうか。

「ああ、まあな。そっか、友達ね。そりゃそうだよな」

ニールが少し安心したような表情をする。もうなにがなんだかわからないんだけど。

「ミハエルが何かしたのか?ていうかミハエルの名前知らなかったのか?」

俺の名前を知ってたのにミハエルの名前を知らない。俺はそこがさっきから引っかかっていた。
ニールも俺の質問の意図を理解したようで、

「いや、そうじゃないんだ。まあハレルヤは、ほら、あれだよ。アレルヤがいるからな」

ああ、なるほどね。それだったら納得できる。またアレルヤか、とは思ったけどしょうがないことだ。
それにしてもなんだか近い気がする。座る場所間違えたか。無意識に近くに座ってしまったことが恥ずかしい。
話も終わったみたいだし、パンも食い終わったし、そろそろ教室帰るか。そうもっともらしい理由をつけているが実際は逃げたいんだ。早くここから。

「もう話は終わりだろ?じゃあ俺教室戻るわ」

立ち上がりならそう言うと、ニールの「えっ」という声が聞こえた。だが、それに構っている余裕なんてない。
早く、早くここから去ってしまおう。そうはやる気持ちだけが足を動かした。

「えっ、おま、ちょっ…待てって、ハレルヤ!」

まさに今右手がドアノブを掴む、というところで反対の腕をニールに掴まれた。

「なんだよ、話は終わったんだろ」

心臓が煩い。頼むから手を離してくれ。そんな内心を知られないように必死に冷静な声を出す。

「ちがう、まだなんだ。まだ話は終わってない」
「じゃあ今言えよ」

頭のなかがぐるぐるする。相変わらず心臓は煩いままだ。掴まれたままの腕がじんわりと熱い。あつい。

「いま、うん、そうだよな。…おれさ、ハレルヤ、あの、さ。俺。おれ」

ニールがもごもごと俯きながら話す。なんなんだ。早くしてくれ。というか腕を放してくれ。

「ハレルヤ!」
「お、おう!」

急に大声を出すもんだからこっちもつられて大声を出してしまった。ニールがキッと前を向く。睨まれて体が竦んだ。
でも、その後に言われた言葉に俺は今より体が凍ってしまった。

「俺はお前のことが好きだ。付き合ってくれ、ハレルヤ」
「え、」

なんだって?ニールが、おれを、なに?
ぽかんとする俺に、ニールはまくし立てるように話し出す。

「男同士なんて気持ち悪いって思うのもわかる。受け入れてほしいなんて思っちゃいないさ。ただ、ただ知ってほしかったんだ」
「ちょ、ちょっと待て」
「じゃあ、それだけだから。わざわざ悪かったな。じゃあな」
「ちょっと待てって!」

手を上げて屋上を出て行こうとするニールの腕を掴む。さっきとは全く逆の立場に少し笑ってしまった。

「てめえは何言うだけ言って逃げようとしてんだ」
「…わざわざ俺を振るために呼び止めたのか?悪いが俺はそんなに人間できちゃいない。このまま行かせてくれよ」

わざと大きくため息をつく。ニールが眉を寄せるのが見えた。だがもうにやけた口は戻らねえ。

「好きな奴に告られたのに返事もさせてもらえねえ俺の気持ちも考えろよ」

言った。言ってやった。ちらとニールを見ると、目を見開いて固まっていた。

「え、マジ、で?」
「嘘だと思ってんのか?」

にやりと笑いながら自信たっぷりに返すと、情けない顔をしたニールにいきなり抱きつかれた。

「マジかよ、やべ、嬉しい。嬉しいんだけど。ハレルヤ、ハレルヤ」

きつく抱きしめられて治まりかけていた心臓がまた煩くなる。顔も、真っ赤なのがわかる。幸いなのはニールにそれを見られていないことだった。

「ちょ、に、ニール、苦しい、はなせ」

それでもいい加減この状況から脱しなければ。屋上なんて誰が来るかわからないのに。
それなのにニールは「いやだ」と言うだけだった。
しょうがない、もう少し、このままで。






「俺さ、お前はアレルヤが好きなんだと思ってた」

ようやっと解放された俺は、ニールと共にさっき座っていた場所にもう1度座っていた。心なしか、さっきより距離が近い。
そのニールは、俺の言葉にすごく驚いていた。

「はっ!?なんでだよ!」
「いや、まあ…」

理由を言ったらニールに俺が見ていたことを知られてしまう。でも、言わないとニールは納得しないだろう。

「お前がよくアレルヤの話してるみたいだったから。まあ何言ってるかはわかんなかったけどさ」
「え、俺アレルヤの話なんて…あ」
「?なんだよ」

目に見えて焦りだしたニールに俺は首を傾げる。そうしたら、また抱きつかれた。

「なんっ、なんだよ!」
「いやー首を傾げるハレルヤかわいいなって!」
「かわいくねえし、っはなせって!」
「いーやーだ」

誰か来たらどうすんだよ!しかもはぐらかされたし。
それでも、好きな奴と通じ合えたということで舞い上がってしまっている俺は、「まあいいか」と思って抱きしめ返した。




次はおまけになります。ニール視点の話です。







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