きみの名をよぶ

ニルハレ学パロ
ニールとハレルヤはクラスメイトです
ハレルヤがかなり乙女


『アレルヤ』
俺の好きなひとがよく呼ぶ名前。
その人は決して、俺の名を呼ぶことはない。






4限目、現代文の時間が先生の都合で自習になった。
自習なんて言われて自習するやつなんてほとんどいない。はずなんだが。
俺の周りの席の奴はまるでいじめのように真面目に自習している。なんだかここだけ別世界のようだ。
友達とも席が離れているし、携帯の電池は先ほど切れてしまった。充電器も今日は持ってきていない。まさに八方塞り。暇すぎる。
しょうがないので勉強をすることにした。周りにしたがって真面目君になってやろう。
適当に教科書を出して適当に開いたページから勉強を始める。こう見えても結構勉強はできるほうだ。
その勉強のおかげで最近芳しくない視力を補うために、オーソドックスな黒ぶち眼鏡をかけ、黙々と勉強に取りかかった。
だが、自分のところは静かでも基本的に教室は騒がしい。そんな中で集中なんてできるわけがない。
ふと、自然に、自分の中では自然に横に目をやる。
俺の席は廊下側1番後ろ。目当ての人物は窓際後ろから2番目。
見るにはちょっと難しいが必死に自然を装って眺める。
そいつ、ニールは、後ろの席の奴と楽しそうに話している。
俺とニールは別に仲は悪くない。そう、悪くはないのだ。良くもないだけで。
良くも悪くも、ただのクラスメイト。それだけだ。だからこうして眺めるしか出来ない。
たまにこうして眺めていると、ニールがよく口にする言葉があるのがわかった。それが、「アレルヤ」
実際教室の端と端ということもあって話している内容は聞こえてこないのだが、自分の名前と同じ口の動きはすぐにわかるものだった。
読唇術とか、俺も気持ち悪いとは思ってる。けど、最初偶然にもわかってしまったそれは、どうしても、忘れることができなかった。
もしかしたら自分のことを言っているのではないか?そう思わなかったと言えば嘘になる。俺も人間だ、自分の都合のいいように解釈したいからな。
だが、アレルヤとニールが去年同じクラスだったと知り、ニールの言っているのがアレルヤだということを理解した。
アレルヤは大人しいが優しいからクラスメイトとすぐに仲良くなる。俺とは違って。
その内、ニールはアレルヤに恋心を抱いている、ということを理解した。全くなんでもかんでも表情やらで理解してしまう自分の頭を呪いたい。
ニールの唇が『アレルヤ』を形どるときは、ニールの表情は本当に、柔らかなものになる。それはもう、見惚れてしまうくらいに。
それを見るたびに、俺は、どうしようもなく、
つらいんだ。






ニールと初めて話したのは、英語の小テストの後だった。
小テストとは言っても成績に響くのでみんな必死だった。
俺は英語は得意科目だったから楽々と解いていた。のだが。

「お前、カンニングをしただろう」

横で教師がそう言ったのがわかった。途端、腕を引っ張られ無理やり立たされる。
俺はどうすることもできず、ただただ呆然とするしかなかった。
教室がざわめき始める。それも、やっぱりそうだったか。という類のものだ。なんだよそれ。
俺はそりゃあ、見た目からわかるぐらい不真面目な生徒だが、授業をサボったことはないし、テストでも上位をキープしている。なのに。
結局俺が何しても、それを認められることはない。それを理解してしまった。しぬほど、悔しかった。

「聞いているのか、ハプティズム」
「俺はなんもしてねえ」

下手に出ると抑え込まれて終わりそうだったから、あえて不遜な態度で出ることにした。それが教師の癇に障ったらしい。

「俺が見たと言っているんだ。したに決まっているだろう!」

言ってねえし、どういう理屈なんだそれは。そう怒鳴りたい気持ちを必死に抑える。怒ってはいけない。もっと疑われることになる。
それはもう、クラス全員から。
隣の席にいるミハエルを見ると、今にも教師に飛び掛りそうな雰囲気を出していた。それに少し焦る。
やめとけ、お前は手を出すな。そう目で訴えると、それに気付いてミハエルが怒りを抑える。
少し安心した。ミハエルが謹慎なんかになったら、俺がつらい。
いきなり頭に衝撃が走った。ミハエルに気をとられていたせいで気が付かなかったが、1拍後に、教師に殴られたのだと理解した。

「聞いているのかハプティズム!」

そろそろキレそうだ。いや、だめだ、教師殴って謹慎なんかなったらアレルヤが悲しむ。
それをストッパーにして、必死に耐える。すると、

「先生、それはだめなんじゃないですか?」

そう、後ろから声が聞こえた。
驚いてそっちを見ると、ニールがこちらを睨んでいた。そのときは名前なんて知らなかったから、誰だこいつぐらいしか思ってなかったけど。

「なんだディランディ。何か文句があるのか」

ニールの口が弧を描く。だが目は冷たく睨んだままだ。

「いやーあるでしょそりゃあ。先生が生徒に手を出すなんてだめですよねえ。それに、ハレルヤがカンニングしたっていう証拠でもあるんですか?」

まくしたてるように言うその言葉の中で、自然に名前を呼ばれたことに驚いた。

「さっきも言っただろう。俺が見ているんだ。ハプティズムがカンニングをしたところをな」
「それって本当なんですか?」
「なに?」

さっきよりももっと冷たい、剣呑な雰囲気が流れる。俺はただ黙って見ているしか出来なかった。

「先生はいつハレルヤがカンニングをしたのを見たんですか?まさかテストが始まってからずーっとハレルヤを見てたってわけじゃないでしょう?」
「…さっき丁度見かけたんだ」
「え、でもそのちょっと前まで先生、違う生徒見てましたよね?俺、見てましたよ」

なんでこいつはこんなに俺をかばうんだ。そんなことしたって、いいことなんて何もないのに。

「しかも先生さ、ハレルヤ見てこう、にやってしましたよね。獲物を見つけたみたいな。見られてないと思ってたんですか?」
「なっ…」

まじかよ、こいつ俺で憂さ晴らししようと思ってこんなことしやがったのか。
教師が押し黙る。視線ははニールを捕らえたまま。
やばい、この雰囲気に耐えられない。自分がこういう風に怒るのならいいが、自分を中心に周りが怒るのは耐えられない。

「…っ」

俺が何か言おう、としたときに丁度チャイムが鳴った。授業の終わりの合図だ。

「…授業は終わりにする」

教師がそれだけ言って足早に教室から出て行く。

「おい、ちょっ」

ニールが呼び止めようとするが、俺がそれを引き止める。

「いい、もう」

ニールはまだ納得していないような表情をしていたが、「ハレルヤがそう言うなら」と身を引いた。

「そういえば俺、勝手にハレルヤって言ってたな。でもハプティズムだとアレルヤもいるしわかりにくいかなって。いいか?」
「…別に、いいけど」

そう言うと、ニールはうれしそうに「ありがとな!あ、俺もニールでいいぜ」と言った。だから俺は、

「かばってくれて、ありがとう、ニール」

それだけ言ってそそくさと席に戻った。ちょっと恥ずかしかったから。
ニールとまともに話したのは、それだけ。
それから、気になりだしたんだ。ニールのこと。






「ハレルヤっ!」
「うおっ」

いきなりの大声に体が竦む。こういうことをするやつは1人しか居ない。

「ミハエルってめえ、いきなり大声出すんじゃねえ!」

大声を出した主であるミハエルに怒鳴りかかる。耳がキンキンする。

「なんだよ、何回呼んでも気付かないハレルヤが悪いんだろ!」
「え、」

マジで?と言うと、マジで。と返ってきた。ということは、俺はもうそれは熱心にニールのことを見つめていたということになる。マジかよ、恥ずかしすぎる。

「ていうかお前、前の席のやつはどうしたんだよ」

そう、ミハエルは今俺の前の席に座っている。さっきまで真面目に勉強していた奴はどこにもいなくなっていた。

「ん?ああ、席かわってくれって頼んだら快くOKしてくれたぜ!」

元のミハエルの席を見ると、いかにもインドア派という感じの男子と目が合った。びくりと体を震わせた後目線が離れる。
ミハエル、お前それはお願いじゃない。脅しというんだ。
1つため息をつく。全くもってどうしようもない友達をもったもんだというように。

「なあなあそれよりさ、勉強教えてくれよ!今回のテストやべーんだ!」

お前はもうちょっと周りを気にしろ。というか俺の態度を気にしろ。
そんなどうしようもないやつでもやっぱり友達は友達だ。甘やかしかと思ったが助けてやることにした。

「今日学食で奢れよ」
「マッジで!やった!ハレルヤ大好きー!」
「うわっちょ、離れろ!」

ミハエルが机越しにがばっと抱きついてくる。
引き剥がそうとしても離れない。なんでここでこんな馬鹿力出してくんだこいつ。
既にチャイムが鳴っていたらしく、教室全体がざわめき始める。
ふと窓側を見ると、ニールがこちらに向かって歩いてくるのが見えた。え、なんで。
あ、そうか、廊下に出るのか。じゃあ俺等邪魔じゃねえか。

「ミハエル!通行の邪魔になる、から、は、なれろってば!」

ようやっとミハエルの体を離すことに成功した。が、

「ハレルヤ、」

ミハエルの体を離すために突っ張っていた腕を誰かにとられる。この声、って。

「ちょっと、話あんだけど。いいかな」

なんで、ニールに腕とられてんだ俺。








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