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名字さんを置いて外に出るのはやめよう。
そしてあわよくば名字さんなら王馬くんの企みを聞き出してくれるのではないか、そういった期待もあって、僕たちは地下道には行かず、エレクトハンマーを持って各々の自室に戻った。


僕も、名字さんを置いて外に出ようなんて思わない。だから名字さんが戻ってきてくれるのを待とう。
そう思っていた。


その判断を後悔することになるとは知らずに。




次の日、朝を告げるアナウンスが鳴り、のそのそとベッドから出ると同時にインターホンが鳴った。
寝ぼけ眼をこすりながら扉を開けると、部屋の前には春川さんが立っていた。
「あんたまだ寝てたの?」
「う、うん…。春川さん、こんなに早くからどうしたの?」
「今朝、食堂の机に妙な懐中電灯のような物が置かれてた。みんな集まってる」
「懐中電灯?」
「とにかく最原も来て」
春川さんはそれだけを言うと踵を返して去っていった。

懐中電灯ってなんのことだ?とにかく行ってみるか…。
僕も急いで顔を洗って食堂へ向かう。


食堂には名字さんと王馬くんを除く全員が揃っていた。二人とも個室のインターホンを押しても、呼びかけても応答がなかったらしい。

「王馬くんはともかく、名字さんを見つけてからの方がいいんじゃないかな?」
「いいえ、名字さんは王馬クンの説得に行きましたから、まだ彼と一緒にいる可能性があります。どこにいるかもわからない人達を探すよりも、先にボク達でこの懐中電灯を確認した方がいいでしょう」
「血も通わぬロボは薄情なんじゃのう」
「王馬クンみたいなことを言わないでください!」
「でもキーボの言うことも一理あるよ。いつまでかかるかわからない人探しに割いてる時間はない」
「僕も先に確認した方がいいと思う。これが危険なものかどうかもわからないうちは下手に人数を増やすよりいいんじゃないかな」
「危険なものなのか!?」
「いや、そうと決まった訳じゃないけど…」
「ちょっと待ったーー!!」
僕たちが名字さんを探すかこの懐中電灯を確認するかで議論をしていると、突然モノクマが大声で乱入してきた。

「モノクマ…お主はなぜいつも急にでてくるのじゃ…。おしっこがちびるかと思ったわい」
「あ…今のは地味に聞かなかったことにしておくよ」
「こらーオマエラ!このモノクマからのプレゼントを危険なものだと決めつけて無碍にするなんてひどいじゃないか!」
「それを聞いてオレは決めたぜ…。そんな懐中電灯を使う必要はねえ!」
「うぷぷぷ…本当にいいのかな…?」
「…どういうこと?」

これは探偵の性なのか、そう聞かずにはいられなかった。モノクマは待ってましたと言わんばかりに、高らかな声で話し始める。
「これは"思い出しライト"と言って、オマエラが失っている記憶を思い出すことができるんだ!例えば…外の記憶とか、仲間の誰かの正体とかね」

モノクマの声だけが嫌なほど食堂に響く。
外の記憶、誰かの正体ってなんだ。なぜ今頃になって、どうしてモノクマはそんなものを僕たちに見せる。

「なんだ…それ…」
百田くんの声によって僕は思考の旅から帰ってきた。
「気になるなら使ってみなよ!そのライトを浴びるだけだからさ!」
モノクマは自分の言いたいことだけ言うとまたどこかへ消えていった。残された僕たちは思い出しライトを前に固まる。

「今までモノクマが用意したものでろくなものがなかったし、今回も危ないんじゃないかな?」
「しかしこれを使えばゴン太が言っておった外の世界の秘密とやらが分かるかもしれんのじゃぞ」
「確認してみた方がいいんじゃないんでしょうか。内なる声もそう言っています」

「くそ…使ってみないことには進まねえしな」
そう言うと百田くんは思い出しライトを手に持った。
「終一とハルマキもそれでいいか?」
「好きにすれば」
「……うん」
僕はどこか引っかかりを覚えていたが、全員の視線を受けると頷くしかなかった。明確な根拠を示せないうちは僕一人が反対してもそれはただのわがままだ。


百田くんがライトを持ち、僕たちに向ける。
眩しい光に包まれた瞬間ーーー

僕は、思い出した。



「そうじゃ、ウチらは希望ヶ峰学園の生徒でそこに通っておった…」
「しかし人類史上最大最悪の絶望的事件があって、78期生と未来機関の活躍により鎮圧されたんでしたね」
「けれど絶望の残党が私たち希望ヶ峰学園の生徒を絶望に染めようとして…うぅ…私も逃げ回ってた…」
「王馬ぁ…あいつ…!」
「私たちの中に絶望の残党が紛れ込んでたなんてね」

そう。僕たちは希望ヶ峰学園の生徒で、王馬くんは絶望の残党だ…。
僕が思い出した記憶も同じものだけど…まだわからないことがある。
「僕たちがここに集められたのは78期生と同じで、絶望の残党から逃れるためなのかな…?」
「たしかに、その部分に関しては何も思い出せないよ」
「きっとそうでしょ。そしてあいつ…王馬はこの状況を逆手に取って江ノ島盾子の真似事をした」
「ということは王馬が首謀者なのか!?」

それだけじゃない。
結局ゴン太くんが見た外の世界もわからないままだ。それに関してはやはりあの地下道の先に行かなければならないのか。
それに、王馬くんが首謀者ならなぜ今頃僕たちにこの記憶を思い出させたのか。

王馬くんと一緒にいる名字さんにもこのことを知らせないと。


「最原、あんたはどうするの?百田は王馬を探しに行ったけど」
「…僕も名字さんと王馬くんを探しに行こうと思っていたんだけど、百田くんが探してくれているなら彼に任せるよ。他にもちょっと調べたいことがあるから」
春川さんは短く、そう、とだけ答えると僕に背中を向けた。その背中を見ていると、春川さんは扉の前で立ち止まり躊躇うように振り向く。
「気負いすぎないでよ」
それだけを言うと春川さんは今度こそ食堂を出て行った。





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