23

・裏庭のマンホールの封鎖
・生徒会以外の夜行動の外出禁止
以上が生徒会によって定められた規則だ。
いよいよ生徒会の、主にアンジーさんの独裁政治が始まろうとしている。
百田くんが異議を唱えても生徒会は聞く耳を持たなかった。


「じゃあアンジー達は行くねー。ぐっばいなら〜」
そう言ってアンジーさん達は食堂を出ていく。
困ったことになったと生徒会の面々を見ていると、しれっとその最後尾を歩く人物に気がついた。


最初は見間違いかと思ったのだが、最後尾を悠々と歩く王馬くんはどう見ても生徒会に加わっているように見える。
開いた口が塞がらないままアンジーさん達が食堂を出ていく様子を見届けた。

パタンと扉が閉まり、しばらく沈黙が続く。
静かな食堂に、春川さんの大きな溜息が響いた。
「あいつ、何考えてんの……」
本当にその通りだと思い、彼女に同意だということを示すために何度も頷く。

こんな時真っ先になにか言いそうな百田くんが静かだと思い、視線を移した。春川さんも同じことを思ったのかほぼ同時に百田くんを見る。
「また体調不良なの?」
「あ、ああ……」

さっき蘇りの話が出ていたから、体調を崩したのだろうか。もしかして……と百田くんに話しかけようとして、思い直す。
ただの私の推測だけでそのことを指摘したら百田くんの面子を潰してしまうかもしれない。男の子は弱いところを見せたくないものだろう。特に百田くんのようなタイプは。

出かけていた言葉を飲み込んで、代わりに百田くんの背中を擦った。疲れが溜まっているのか、昨日よりも顔色が悪い。
「あの……一度部屋に戻って休まれた方がいいのでは……」
「そうする……」
「心配なので着いていきますね」
王馬くんのことも気になっていたが、今は百田くんを部屋まで送ることを優先させるべきだ。王馬くんと話すのは後でもできる。

百田くんを支えようとした時、彼は掠れた声で私の名前を呼んだ。
「名字、オメーはあいつのところに行け……」
「あいつ……?」
「何考えてるかわかんねーけど……名字なら王馬の考えてることを聞き出せるかもしれねー……」
百田くんは息も絶え絶えで苦しそうに顔を歪ませていたが、真っ直ぐ私を見据えていた。

「でも……」
「むしろ……オメーしかいないんだよ……」
どうして私なんだろうか。
そんなに期待されていることに驚くとともに、この期待に応えなければならないと感じた。

「わかりました……」
周りを見渡し、一番近くにいた春川さんに百田くんを寄宿舎まで送るようにお願いした。
春川さんは少し渋るような態度を見せたが、案外あっさりと引き受けてくれた。

「百田くん……いってきます」
「ああ……任せたぜ……男の約束だ」
百田くんはグッと拳を作る。それに応えて私も拳を作った。
春川さんがアホくさ……と呟いたような気がするが、気のせいだと思いたい。


やってやる……。男の約束だ。女だけど男のように強い志を持って立ち向かってやる……!

そのまま扉に手をかけ、颯爽とその場を去ろうとした時……
「わ……!」
「きゃっ」
扉を開けた瞬間に誰かとぶつかってしまい、尻もちをついた。

「ご、ごめん! 名字さん大丈夫!?」
「あ、はい……」
必死に謝る最原くんに助け起こされ、私は一気に現実に引き戻された。
慣れないことをするものではない。先程まで熱く燃えていた闘志の灯火は小さくなり、恥ずかしさに顔が熱くなるのを感じる。最原くんに大丈夫だと何度も告げて、ろくに挨拶もせずにその場を走り去った。



自分のダサさ加減に溜息をこぼす。
しかしいつまでもウジウジとしていられない。百田くんと男の約束をしてしまったので、せめて王馬くんに今回の行動の意図を聞き出さなければ。
百田くんいわくそれができるのは私しかいないらしいし……。
その根拠は全くわからないけれど期待されるとやる気が出てくるのも事実で、私なりに頑張ってみようと思えた。


「まずは王馬くんを探さなきゃな……」
そう独り言ちた時、手のひらに乗せているルーちゃんがピクリと反応した。あれ……今何に反応した?
不思議に思った私はルーちゃんに話しかける。
「ルーちゃん、王馬くんどこにいると思う?」
すると、ルーちゃんは鼻をヒクヒクとさせながらニオイをかぎ始める。
ルーちゃんに導かれるまま辿り着いたのは王馬くんの部屋だった。


まさかとは思うが……
仮説を立証するために、私は一度寄宿舎の外に出てもう一度ルーちゃんに話しかけた。

「王馬くんはどこ?」

ルーちゃんはその一言を聞いただけでまた鼻を動かし、王馬くんの部屋の前まで私を導いた。


仮説は立証された。ルーちゃんは"王馬くん"という単語に反応してニオイを辿っている。
いつの間にこんな芸当を身につけていたのだろう。
王馬くんと一緒にいることが多かったから、匂いを覚えたのだろうか。その時よく聞こえてきた"王馬くん"という単語とともに。

私は暫く黙り込んでそんなことを考えていた。もしこれが本当だとすると……
「す、すごいよルーちゃん!」
思わず歓声を上げる。
自然と芸を覚えるなんてこの子は天才だ!と昂ぶる感情を抑えきれずにいると、不意に目の前の扉が開いた。

「いっ……」
その扉は私の額にクリーンヒットし、思わず額を押さえてしゃがみこむ。

「人の部屋の前で何してんの」
呆れたような顔の王馬くんに見おろされ、私は曖昧な笑みを返した。



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