24

「名字ちゃん頭でも打ったの?」
「額なら先程打ちました……」
私は今王馬くんの部屋のソファーに縮こまって座っている。


他人の部屋の前で騒ぐという迷惑行為を侵す私を確保した王馬くんは、とりあえず私を部屋の中に招き入れてくれた。

王馬くんは隣に座り私の顔をじっと見つめる。どういうことか説明しろという目だ。
私は視線を泳がせてどこから説明しようか考える。

結局、百田くんに王馬くんから事情を聞くように促されたところから、ルーちゃんが王馬くんという言葉に反応したところまで全部話すことにした。

百田くんの話の時に怖いくらいの真顔で微動だにしなかったのが少し意外だったが、全て話し終えてチラリと様子をうかがうと彼は頬杖をついて口の端を上げていた。

「ふーん、それで他人様の部屋の前で騒いでたわけね」
「うるさくしてすみません……」
私は再度縮こまりながら謝る。動物のこととなると周りが見えなくなるのは反省しなければならない。どこか満足げな表情を浮かべる王馬くんを不思議に思うが、王馬くんは嘘つきなので内心では怒っているのではないかと勘ぐってしまう……。
久々に王馬くんが怖いと感じた。


「そ、それで非常に厚かましいようですけど聞かせてください……。王馬くんは生徒会に入ったのですか?」
王馬くんの無言の笑顔が怖かったので空気を変えるために本題に入る。
今日は一度失態を犯しているため彼が簡単に口を割らせてくれるのか不安だったが、意外にもケロリとした態度で答えてくれた。

「そうだよ。オレも神様を信じたくなっちゃってねー!」
いつも突飛な行動をする彼だが、今回は行動があからさますぎて彼の真意がわからない。……真意がわからないのはいつものことだが。
「生徒会と全面戦争をするのではなかったのですか?」
訝しげな目を王馬くんに向けると、彼は真顔に戻った。

「だからだよ」
そう言い放った王馬くんを正面から見つめる。
「組織を潰そうと思ったら内部破壊が1番でしょ。味方に思わせて奇襲をかける。常套手段だよね!」
彼の口からスラスラと述べられる理由は一見彼らしいように思えた。
でも本当にそれだけなのだろうか…どこかスッキリとしない違和感がある。その違和感は正体不明で漠然としたものだった。

「そういうわけだから名字ちゃんは余計な真似しないでね」
「余計な真似って……」
確かに今まで気絶したりモノクマーズパッドを回収するも徒労に終わったり、一人で空回っていることが多い。
私が何も言えずにいる中、王馬くんは言葉を続ける。

「百田ちゃんに何を言われたのか知らないけど、一人でのこのことオレのところに来るなんてね」
王馬くんは私の目の前で仁王立ちになり微笑を浮かべる。
その圧迫感に気圧される。身体が緊張で強張ってきたが、なぜか不安はなかった。

「……王馬くんが私を目障りに思っていることはわかっています。一人でから回って、最原くんにも助けられてばっかりですし……」
「最原ちゃん、ね」
王馬くんは微笑を崩さない。その内側には鋭く冷たい棘が潜んでいる。

「王馬くんも何を考えているかわからないですし、一人で行動して、突飛なことで周りを掻き乱して……他人のこと言えませんよ……」
気づくと私は言葉を紡いでいた。胸の中に溜まっていたものが口から溢れ出る。
「いつも事後報告で……気づけば王馬くんの手のひらの上で、振り回されるだけの私達の中には王馬くんをよく思っていない人も多くて……。でも心配で……そんなことをしていたら目をつけられるんじゃないかって思って……そうなる前に私が行動しようと思ってもすでに王馬くんは動いていて……」
支離滅裂でただ思いに任せて感情を吐露する。
言い訳がましいそれはずっと身体の奥に溜まっていたもので、話しながら自分はこう思っていたのかと確認する。溢れ出るものを整理してから言葉にするなんて余裕はなかった。

王馬くんはただじっと私の拙い言葉に耳を傾けていた。
彼はポーカーフェイスだから真意は分からないけれど、心なしか驚いているように見える。

「名字ちゃんのくせに生意気」
彼は顔を伏せてそう呟いた。

やっぱりそうですよねーと笑い飛ばしたい。口走ってしまったことに今さら恥ずかしさを感じていると、王馬くんがパッと顔を上げた。
「名字ちゃん、オレと勝負しよっか!」
「へ……?」
「オレと名字ちゃん、白旗をあげた方が負けだよ」
突然の王馬くんの提案に唖然とする。
「はあ……白旗……ですか?」
いまいち要領を得ない勝負に首をひねった。

「ちなみに、勝負に負けたらなにか罰ゲームでもあるんですか?」
「名字ちゃんは罰ゲームなにがしたい?」
「え? 私に聞かれても……」
そもそも私が負けること前提で話が進んでいることが気になる。
「じゃあ負けた方は相手の言うことを1つ聞く! 定番でしょ!」
うわ……無理難題を押し付けられそうだ……。と考えて自分までもが負ける気でいることに気づく。
よくわからない勝負だけど、とにかく白旗をあげなければいい話だ。

わかりましたと頷く。
それを見た王馬くんは満足げに笑い、用は済んだとばかりにグイグイと私の背中を押す。そのまま追い出されるような形で王馬くんの部屋を出た。



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