22

「結局、私には何も憑いていなかったのでしょうか?」
自身も片付けを手伝いながら真宮寺くんに問いかける。
「実際に何かが憑いている人があれだけのことをして何も感じないというのは考えられないから、そう考えるのが妥当だネ」
よかった……本当に何かが取り憑いてるのだとしたら気味が悪くてしょうがないと思ったけど、何事もなく終わったことに安堵した。

「でも……大切な人を残して先に逝ってしまった死者は寂しいでしょうね」
「…………」
真宮寺くんは無言で出していたものを丁寧に片付けていく。

まあだからといって私に取り憑くのはやめてほしいけど。
この頭痛が霊的なものではないとわかった。
ならばこの頭痛の原因は何なのか?
安堵したのは確かだが、また振り出しに戻ってしまったのも事実だ。


片付けが終わり、最原くんからルーちゃんを返してもらった。
「ルーちゃん……!私……生きてる!」
ルーちゃんの額に自らの額をぐりぐりと押しつけたり、鼻と鼻をくっつけたりと存分に戯れる。

「名字ちゃんは大袈裟だな〜」
「本当に怖かったんですから……でも、何事もなくてよかったです。結局頭痛の原因はわからず終いですが、霊的なものではないとわかっただけでも収穫ですよね」
「僕もそう思うよ。これから一緒に解決していこう」
「はい! ありがとうございます」
私は最原くんに笑みを返した。


研究教室に残るという真宮寺くんを置いて私たちは教室の扉を開ける。

廊下に出た瞬間に私の顔からは笑顔が消えた。

「あ……そっか。名字さん」
その場から動けずにいる私に気づいて最原くんが手を伸ばしてくれた。
彼の慣れた手つきを頼もしく思うと同時に、こうさせてしまったのは私だという罪悪感もある。

申し訳ないと思いながらも彼に手を伸ばそうとした時、王馬くんが徐に口を開いた。
「あれ〜? 名字ちゃん、これなに? ほら、この黒いの……あ。」
王馬くんは私の肩の辺りを見ながら不思議そうにしている。彼が手を伸ばして肩に触れた時、あ……と声を漏らしたことによって、わずかに残っていた冷静さを失った。

「な、なんですか!? 虫ですか!? ま、まさか……おばけですか!? 早く取ってください!」
「いくら悪の総統でも肩についてるおばけを取るのは難しいなー」
「ん〜〜〜……!」
何でもいいから早く取ってほしいもどかしさで手がわなわなと震える。
はいはいと答えた王馬くんは再び私の肩に手を伸ばす。何かを摘み、それを眺めて目を大きく見開いた。
「これは大変だよ名字ちゃん!」
その大袈裟なほどのリアクションに嫌な予感がする。怖いけど、確かめたい気持ちもある。


「何がついてたんですか……?」
恐る恐る王馬くんの手の中を覗き込む。その指には確かに黒い何かが摘まれていた。でもこれって……

「ホコリ」
王馬くんはそれだけ言うとそのホコリを指で丸めた。

ガクッと肩の力が抜ける。やっぱりホコリか……今思えばこんな嘘に惑わされるなんてどうかと思う。
大変だと言うから本気で虫だと思ってしまった。でもただのホコリでよかったと安堵する。

ありがとうございますと一応王馬くんにお礼を言い、私は2人に挟まれる形で歩みを進めた。


気が抜けたからか、ビクビクはしていたものの無事に3階まで戻ることができた。少なくとも、最原くんに縋りつくような真似はしなくて済んだ。 

先程の一連の行動はもしかして王馬くんなりの気遣いなのではないかと勘繰る。
チラリと彼の横顔を盗み見るが、そこにいるのはいつもの飄々とした王馬くんだった。





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