Incontro di una notte di mezza estate

ワンドロ。お題は「出会い」。

クレーさんとの出会いを書かせていただきました。



Cast:
猫夢様宅 クレーさん
ジュゼッペ









  それは星の輝く夜だった。
  突然飛び込んできた出会いに、何だかわくわくする未来を感じたんだ。



かたんと音を立てて、彫刻刀が置かれた。茶の大きな瞳が、時計に視線を送る。
「んー、……もうこんな時間?眠いと思った」
くあ、と一つ大きなあくびの後、ジュゼッペは大きく伸びをした。
机の正面に張られた紙には、瞳を閉じた男の子のラフが描かれている。その真下には、組み立て終わったばかりの可動式人形。その頭を一撫ですると、紙やすりや木くず、メモが散らかった机の上を適度に片づける。
ふぅと一つ息をつき、机に肘をついて、もう一度目の前の人形へと視線を送る。壁に寄りかかり俯いたその様子は、まるで穏やかに眠る子供のようだ。
暫くの静寂が、がらんとした工房に広がった。
「……僕もそろそろ、寝ようかな?……お休み、bambola。明日には、君の名前を決めようね」
穏やかな笑顔を浮かべながら、人形に語り掛ける。酒場や広場で楽しく他人と過ごす時間も大好きだが、こうやって一人と一体、ゆっくりと向かい合う時間も同じくらい大切だ。
「…………君は、何ていう名前が良いんだい?好きな色は?長ズボンが良いかな、それとも半ズボン?……君たちと話ができたら、楽しいのかな」
最後の問いかけは、窓辺や背後の棚で静かに腰かける人形たちにも向けて。
数秒の間の後、ジュゼッペはかりかりと頬を掻いた。
「……うん、僕も寝るよ!お休み、みんな」
立ち上がり、エプロンを外して椅子に掛ける。ランプを手にとり、体の向きを変えようとしたところで、目の前に窓の外の景色が広がった。
大きな張り出し窓から見えるのは、広場に枝を伸ばす大樹と、その太く立派な枝越しに見える夏の夜の星空。
その幻想的な光景に、ふっと瞳が細められる。
「すごいや、綺麗だなぁ……。それに、明るいや」
ランプの火を吹き消し、窓辺に置くと、小さく脇の窓を開ける。目の前を横切る光が瞳に映った。
「わお、流れ星だ!」
少年のように瞳を輝かせながら、ぐいと体を乗り出す。遠くでまた一つ、きらり。
「あれ、今日は流星群の日だっけ……?」
空を見渡しながら、ジュゼッペは小さく口に出した。真上を見上げたところで、月の灯りにも負けずに一等大きく光る星が目に入る。それをしばらく見つめた後、ふっと真面目な表情を浮かべると、瞳を閉じた。
「……いつか、命を持った人形を、創りたいな。……僕たちが動かすんじゃなくて、自分で行きたいところに行って、歌って、踊って。楽しければ笑って、哀しければ泣いて。…………信じていれば、叶うかな」
普段開かれれば明るい言葉がぽんぽんと飛び出すその口から、呟かれたのは。
再び一つ、大きく息が吐かれた。
満天の星が煌めく中、また流れ星が夜空を駆ける。
「今日は本当に美しい夜空だな、…………あれ?」
外に開かれた窓を閉めようとしたところで、きらり、と光が大樹の横に見えた。その小さな光は、ぐんぐんと近づいてくる。
ぽかんとした表情を浮かべたまま眺めている間にも、それは大きく近くなる。ひゅんと音を立てながら閉じかけられた窓の隙間から飛び込んできたその光は、髪を揺らしながら顔の横を通り過ぎていった。
「わっ!え、何、…………わお!ベッラな妖精さんだ!」
慌てて部屋の中へと振り返ったペペが見たのは、工房の中をきょろきょろと見回す、小さな少女の姿だった。突然の可愛らしい来客にも、ジュゼッペの顔が輝く。
「チャオ、ベッラ!ごめんね、もう夜だから店じまいなんだけれど……」
「お願い事、耳に入ったの。で、どの子を動かせば良いの?」
高く澄んだ声が耳に入り、ジュゼッペは口を開いたまま数度瞬きをした。
「……え?お願い?」
その間にも、妖精はひらりと机へ近づいた。
「この子かしら?」
人形の木でできた頬をつんつんとつつき、こちらに向かってそう問いかけてくる。ほんの少し状況を飲み込んだジュゼッペは、慌てて机に駆け寄った。
「ちょ、ちょっと待って!どういうことだい?」
「命をあげるまではできないけれど、魔法で動かすぐらいならできるってこと。今日だけサービスでかけてあげるわ」
「待って!」
思わず大きな声が出て、ジュゼッペは口を噤んだ。しんと張りつめた空気が、工房の中に満ちる。
「何よ?」
心底不思議そうに見上げてくる妖精に、しばらく視線をさまよわせた後、やっと口を開く。
「…………うん、確かに、僕は命を持った人形が作りたいよ。……けれど、それは、魔法とかじゃなくて、…………うーん、なんて言えばよいんだろう。……そうだな」
妖精の少女の瞳を真っ直ぐに見つめ、きゅっと表情を引き締めて、言葉を探す。
「自分の手で、作りたいんだ」
やっと引っ張り出したのは、シンプルで、それでも自分の心からの言葉。
張りつめた空気は霧散し、静寂だけが工房内に残っていた。
「…………ふっ」
その静けさを破ったのは、少女が先だった。整った顔に楽しげな笑みを浮かべ、けらけらと笑い声を立てる。
「……あはは、あんた、気に入ったわ!そんならその夢を叶える瞬間でも見せてもらおうかしら!」
「……え?」
再び状況について行けず首を傾げるジュゼッペの目の前まで、妖精がふわりと飛び上がる。
「あたしが見届けてあげるわ、その時を!良いでしょう?」
少女の悪戯っぽい表情に、数度ぱちくりと瞬きをした後、ジュゼッペも満面の笑みを浮かべる。
「……うん!じゃあ、君に証人になってもらおうかな?僕がいつか、本当に作り上げる日のね!」
夏の星空と大樹の見守る中、交わされた約束。


彼らの願いがかなうのは、いつの日か。







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