Della storia giorno precedente

ジュゼッペのレターズフェス。……の、数日前のおはなし。


様々な作品の流れをお借りしました。



Cast:
猫夢様宅 クレーさん
お名前のみ
赤星エリ様宅 エミリアさん
猫夢様宅 ヴィンフリートさん
みそ様宅 トゥーヴェリテさん
いりこ様宅 ラルウェルさん
      ロナンシェさん
      リゾさん
むくお様宅 ヨルクさん
一葉様宅 ヴォルフさん
るる様宅 キューレさん
そば猫様宅 ヴィーニュさん
ツミキ様宅 シイスーンさん
りれん様宅 ヘンリーさん
ワラビー様宅 セリオンさん
旭様宅 ドロテーアさん
ふんわりと
ツミキ様宅 アマーリアさん

ジュゼッペ






とある晴れた昼下がり。
街角はいつにも増して賑わい、わずかに残った雪をもその熱気で溶かしそうだ。
ぽかぽか陽気を大きな張り出し窓から取り込んだ工房は、反対側にある暖炉のぬくもりと相まって、長袖では少し暑いくらいだ。
その暖かな室内で、真っ直ぐに机に向かう青年が一人。どこかぼんやりとした表情で、掌の中の木片と向かい合っている。
机の上にも下にも、大小さまざまな木屑が散らかっている。ばさりと広げられたメモ帳や本の数々。机の上には作りかけの人形が一体、壁を背にして腰かけている。
かしゃん、と小さな音がして、ジュゼッペは顔を上げた。視線を右に送ると、玄関の横の窓がするりと開いたところだった。見つめているうちに、ふわりと小さな光と、その光がすっぽり収まってしまいそうなバスケットが飛び込んでくる。
「ああ、お帰り、クレー!……あれ、今は何時だい?」
バスケットごとぽすりとソファに着地した同居人に声をかけてから、思い立って壁を見渡し、時間の経過に驚く。いつの間に昼時を過ぎていたのだろう。
クレーが顔の近くまで飛んできて、呆れた、という様子で首を振った。
「あなた、いつから机の前に座っていたの?ご飯も忘れるなんて。ここのところずっと、根を詰めているじゃない」
「そうかな?そんな事はないと思うんだけれど」
そう言いながらも、顔にはやや疲れが見える。
「確かに座りっぱなしだけれど、時々気分転換はしているしね」
「……あら?それは何?」
握っていた彫刻刀を机に置き、手元に目を落とす。
クレーが肩から机の上へと飛び移った。
「人形……じゃないのね、珍しい」
細い木の幹を輪切りにした、手のひら大の丸い木片。そこには、粗削りながらも薔薇が浮き彫りにされていた。
自分の背と同じ大きさの作品を覗き込みながら、ふぅん、とクレーが感心したような声を上げる。
「うん。前にエミリアと話をしていた時にさ、薔薇のデザインの話題になったのを思い出して。ちょっと気分転換がてら、彫ってみようかなって思ったんだ。やっぱり細かい部分が多くて難しいね」
溝に残った木屑を指で払い落しながら、ジュゼッペは机の上へ眼を遣った。大輪の薔薇が描かれた、画集の一ページ。
「でも、彫ったは良いけれど、使いどころがなくてさ。どうしようかなぁ」
先日ラルウェルと熊の人形を作った時のような、渡す対象がいるわけでもない。小さな手遊びだ。
クレーの小さな手が、木彫りの薔薇に触れた。
「あら?鏡をはめて、下に同じ大きさの台を付ければ、コンパクトミラーになりそうねって思ったんだけれど」
「うーん……ミラーかぁ。トゥーヴェリテに頼んでみようかな」
くるりと裏返し、鋸で挽いたままのささくれだった表面を撫でる。
「で、加工したら、誰かにあげれば良いじゃない。今はそういう時期なのでしょう?」
「誰かに、かぁ」
先ほどの考えを読んだかのようなクレーの言葉に、ジュゼッペは知り合いを頭に思い浮かべた。特に、この一年で世話になった女性。立ち話をした程度の関係も含めれば、相当な人数だ。
「それなら、みんなにあげたいけれど……一度にたくさんは作れないし、間に合うかなぁ」
盛大なため息が聞こえた。やれやれと言わんばかりに首を振っている妖精の少女の姿を見て、ジュゼッペは首をかしげる。
「……まあいいわ。だいたいあなた、レターズフェスの準備はしているの?何にも気配が無かったから、ヴィンフリートから聞くまで知らなかったわ」
「ああ、彼から聞いたんだ!確かに、こういう感謝のイベントって、彼ならとっても張り切りそうだよね」
合点がいったというように、ペペは声を上げる。常日頃から周囲に気を配る心優しい彼なら、一年の感謝を伝える素敵な機会を逃すはずがない。
「……で、あなたは?」
念を押して確認するような彼女の言葉に、ジュゼッペは、う、と言葉を詰まらせた。作業机にも自室にも、便せんや包み紙の類は見当たらない。
「えっと……、……まだ、準備していない、かな」
「…………意外ね。あなたこそ、こういうイベント事には乗り気だと思っていたのだけれど」
きょとんとするクレーに、ジュゼッペは慌て、取り繕うかのように言葉を紡ぐ。
「いや、一応考えてはいるよ!?でも、手紙を書くより、直接会って話をする方が好きだからさ。あと、小さい頃に、ペンで手紙を書こうとしたら、インクをこぼして大変なことになっちゃって。それもあって、何となく手紙を書くのがね、その……えへへ」
最後が蛇足にも似た言い訳と感じつつも、頬を軽く掻く。
「……去年まではどうしていたのよ?」
「えーと、ピンクやオレンジの薔薇に小さなメッセージカードをつけて、直接手渡していたよ。薔薇って、本数や色で花言葉が変わってくるんだろう?一度赤い薔薇をみんなに送った年があったんだけれど、大騒ぎになっちゃって」
そう正直に告げると、クレーが再び盛大にため息をつくのが見えた。
「あんたねぇ……」
「あ、あはは……、こういう賑やかなことは好きなんだけれどね」
そう言いながら、視線は張り出し窓の外へ。華やいだ空気が陽気と共に、窓越しに流れ込んでくる。
「……今年はどうしようかなぁ」
ぽつり、と呟く。毎年のように、薔薇を世話になった皆に送ろうか、と考えてはいたのだが。
クレーが張り出し窓から外を覗き込んだ後、窓枠に腰かけ、首を傾げながら見上げてくる。
「どうしたのよ?」
「ううん、……何でだろう、今まで通りで良いのかな、って思って」
最近、自分の周りが、大きく動き出している気がする。
抱えていたらしい悩みを、爽やかに吹っ切ったようなトゥーヴェリテ。
娘を慈しみながら、時折別の人影へと視線を送るラルウェル。
ロナンシェも、リゾも、何やら落ち着きがなかったり、それでいてふわふわとしていたり。
ヨルクとヴォルフだってそうだ。最近の飲み会はもっぱら、特定の相手の名ばかりが出てくる。その時の二人は、とても良い表情で。ずっと一緒にいるからこそ、小さな変化でも気づける。
皆とは少し方向性が違えど、キューレも近頃、何かを抱えているようなそぶりを見せている。
それと。
「……何?」
クレーもこのところ、何やらそわそわと忙しそうにしている。恐らく、レターズフェスの準備なのだろう。台所に籠っていたり、かと思えば一日中出かけていたり。顔を合わせて話をするのも、何だか久しぶりのように思えてくる。
「いや、えーと……」
言葉を濁しているうちに、顔の脇をひゅっと光が走った。目で追う暇もなく、髪がぐいと勢いよく引っ張られる。
「痛たたた!?」
思わず声を上げながら顔を向けると、ふくれっ面のクレーと目があった。
「何よ、湿気っちゃって!あんたが元気ないと、調子が狂うわ」
ぷんすこ、という表現がぴったりの彼女の様子を見て、ジュゼッペは数度ぱちくりと目を瞬かせた。その口許が、次第にゆるりと持ち上がる。
「……そうだよね、……うん、何でもないよ!ありがとう」
いつの間にかぼんやりとしていたらしい。声とともに、ため込んでいた息を吐き出して、ジュゼッペは笑顔に戻った。
そうだ、やる事はたくさんある。未来や周りばかり見ているのではなく、今を一歩踏み出さないと。立ち止まってしまえば、叶うものも叶わなくなってしまう気がする。
何より、深く考えこむのはあまり性に合わない。
何時ものように、両手に抱えきれないほどの薔薇を、ヴィーニュから買ってきて。
ヴィンフリートやシイスーンは、何色の薔薇が好きだろう。
ヘンリーとセリオンに、頼まれていた人形を送り出して。
ドロテーアのお店で、お菓子を買ってつけようか。
メッセージカードには何と書こう。
ポジティブな方へと、思考が動き出す。
「とりあえず、この薔薇は保留かな?」
ことん、と人形の横に、木で彫った薔薇を飾る。机のまわりの木屑を払おうとして、ふと幅広の短い鉋屑が指先に触れた。薄い花弁のようなそれをひょいと摘み上げて、ジュゼッペは目を瞬かせた。
「……まあ、元気になったのなら良いけれど。あたしはもう一回出かけてくるわ」
ふよふよとバスケットに近づき、中身を整理しているらしいクレーの声を小耳に挟みながら、指先で薄い鉋屑をくしゃりと軽く波打たせる。それをくるりと丸めれば。
「行ってくるわね」
「あ、うん!行ってらっしゃい!」
顔を上げて送り出した後、もう一度手元へ視線を落とす。木の花弁をもつ小さな薔薇が、指先にちょこんと乗った。
これをいくつか作って花束のようにし、同居人の家の前へ置いておいたら、彼女はどんな顔をするのだろう。悪戯好きの彼女に、たまには仕返しをしてみたい。
「……よーし」
机の上に散らばった薄い木片を集めながら、ジュゼッペは椅子に腰かけなおした。



薔薇の花言葉
ピンク→感謝
オレンジ→絆
(黄色→友情)
参考→バラの色別花言葉
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