ワームウッドとポルイニャ

クラーレ襲撃から数日経ったとある日、軍施設の片隅で行われた、ニガヨモギ組の会話



「あらぁ、おじさま、ごきげんよう」
「……ポルイニの娘か」
「もう、おじさま。愛称か、せめてポルイニャと呼んでちょうだいと、いつもお願いしているでしょ」
「…………わかった」
「うふふ。最近お見かけしていなかったから、どうしていたかと思っていたわ」
「少し、立て込んでいてな」
「研究が?」
「ああ」
「そうなの。強い毒はできた?」
「……っ」
「どうしたの?何か、お気に触った?」
「…………、……いや、気にするな」
「わかったわ。急に怖い顔をするから、びっくりしちゃったじゃない」
「……すまない」
「そういえば、何かお手伝いできることはないかしら?」
「……今は特に、……いや。一つある」
「あら、なぁに? ボタン付け?」
「違う。……今持っている黒い白衣を、軍服代わりにしようと思うのだが、……軍の紋章を付けることはできるか」
「あらぁ、お安い御用よ。バッヂや腕章は嫌なの?」
「……何かにひっかけると面倒だ。研究の邪魔にもなる。装飾品はなるべくつけたくない」
「はぁい。なら刺繍が良いかしら?それとも裏地をつける?胸元が良いかしら、それとも襟元?」
「…………任せた」
「はぁい、頑張るわ。でも、あのコートはどうしたの?なかなかお似合いだったのに」
「…………」
「?」
「……重くて、夏場には暑いかと、思ってな」
「…………うふふ、わかったわ。深入りしないであげる」
「…………」
「それで、いつまで?お急ぎかしら?」
「……上に聞け」
「うふふ、それもそうね。いつまた指令が出るかわからないもの。クラーレ軍は待ってくれないしね」
「…………、そうだな」
「じゃあ、なるたけ急ぐわ」
「……頼んだ」
「はぁい、任せてちょうだい。あとでお洋服を取りに行くわ、研究室が良いかしら?それともおうち?」
「……こちらに持ってくる。明日、研究室で渡す」
「わかったわ、明日ね。ついでにお掃除もしてあげましょうか?」
「……いや、いい。構うな」
「はぁい。……そういえば、今はどこに行くおつもりだったの?」
「……腹が減った。食堂か、購買にでも、と」
「あら、一緒ね。私もお昼にしようと思っていたの。おじさま、ちゃんと食べていらっしゃる?」
「…………最低限の栄養価は摂っているはずだ」
「ふぅん。なら良いけれど」
「…………時間はあるのか」
「? ええ、お昼休憩よ」
「…………頼みごとの前払いに、奢ってやる」
「わぁ、本当? 嬉しいわ。ねえ、ケーキも食べて良い?」
「……好きにしろ」
「うふふ、早速行きましょ!」


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