一夜開けて


窓から灰色の夜空を見上げ、物思いに更ける。
右足はひりりと痛むが、それよりも痛むのは胸の奥深く。
戦場だろうといつも通りの冷静を保っていた、と思っていたが、こうやって思い返せば、あの心理状態が異常であったと気づく。
少し落ち着いて観察すれば、あれが年端もいかぬ少女だと気づけただろうに。
先に手を出したのは自分だった。
気負わずにいたつもりでも、やはり慣れない土地で戦場の独特な高揚感に呑まれ、気が張り詰めていたのだろう。
怪我をさせていないか、ほんの一時でも怯えさせていなかったか。
ちり、と再び切り傷が主張した。
解のない自問自答は、曇天の朝を迎えるまで終わりそうにない。



朝から体が重いと感じていたが、どうやら微熱があるらしい。昨晩の疲労と徹夜が響いたのだろうか。早朝から始めていた実験の手を止め、椅子にもたれ掛かる。
そろそろ包帯を巻きかえる時間だ。支給された消毒薬を手に取り、ふと自嘲する。毒を扱う者が、「消毒」か。
解毒など、今までの研究の中で考えたこともなかった。
毒と薬、打ち消しあう力関係に、ふと二つの都市を重ね合わせる。
薬は過ぎれば毒となり、毒は時に薬を産み出す。
面白いものだな、と口の中で呟いて、包帯を解く。
昨晩の強襲は、互いの都市にとって、薬となるか毒となるか。
見届けるまでは逝けなくなったな。胸の奥、今は鳴りを潜める病魔に語りかける。


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