祖国を目指せ! | ナノ


▼ とある民家にて



「ここがラムの村です」

歩く事少し。ルカさんの案内により、私は小さな村に到着した。かなりの辺境だ。騎士であるルカさんや、異国の服装の私が珍しいらしく、村の人達は騒然としている。

「どうやらこの村には、知らせが届いていないようですね」
「国王や解放軍の話ですか?」
「ええ…私は近いうちにマイセン卿の家に伺いますが、ナマエさんはどうします?」
「少し休息を取っておこうかと」

ルカさんとそんな話をして、彼とはいったん別行動となった。彼が用事を済ませている間、私はどこかの民家で身体を休めよう。

「すみませーん」

手始めに近くの家を訪ねる。

「はーい」

すると、可愛らしい返事と共に、幼い女の子が扉からひょこっと顔を覗かせた。見たところ6、7歳ぐらいかな。私の姿を確認して、彼女はそのつぶらな目を瞬かせた。

「お姉ちゃん、もしかして旅のひと?」
「うん。今は休む場所を探しているんだけど…大人の人はいるかな?」
「お父さんもお母さんも、お兄ちゃんも騎士様のお話を聞きにいってるの」
「そうなんだね」

彼女の返答を聞いて、私は少し難しい顔をした。うーん、つまり彼女は家で留守番中という訳か。家主(多分彼女の父親がそれ)がいないのに、休息させてほしいという話をするのは不毛な気がする。残念だけど次の家を当たろうかな。

「お姉ちゃん、わたしの家で休んでいってよ」
「えっ?」

別れの言葉を言おうとした矢先に、女の子が私の袖をくいと引っ張る。驚いて視線を向ければ、彼女はさながら天使のような笑みを浮かべていた。

「えーと、本当に良いの?」
「だってお姉ちゃん困ってるんでしょ?」
「それはそうだね」
「ロビンお兄ちゃんが、困っている人は助けろって言ってたもん」

えっへん!と効果音がつきそうなぐらい胸を張る女の子。微笑ましさと純粋さで、本当に天使が降臨したのかなと思った。幻覚だ。彼女の親族も気持ちの良い人そうだし、厚意に甘えても良いかもしれない。

「ありがとう。少しだけ休ませてもらおうかな」
「じゃあ、すぐ部屋に案内するね!…あ、でもその前に兄弟が___」
「ただいまー!…おっ!旅の人じゃん!」
「すげぇー!僕たちに旅のお話聞かせて!」

女の子が何かを言う前に、玄関の扉が勢いよく開かれる。びっくりして振り返れば、二人の少年が目を輝かせて私を見ていた。

「き、きみ達は?」
「わたしの兄弟たちだよ」

彼らの威勢の良さに慄く私に、女の子がどことなく困った顔でそう答えてくれる。あれは面倒な事になってしまった、という表情だ。彼女は年齢の割に苦労しているのかもしれない。

「もう!お姉ちゃんは疲れているの!だからお兄ちゃんたち静かにして!」
「でもさ、この村に旅人なんて滅多に来ないんだぜ!?」
「それは分かってるけど…色々面白い話とか聞きたい!」

嗜めてくる妹を、うぐぐ…と唸りながら説得する兄達。私に迷惑は掛けたくないけど、冒険話への好奇心が抑えられないといった具合だろうか。男の子ってそういう話が好きだと聞いた事はあるけど…。

「お姉ちゃん!とりあえず寝室に案内するね!」

このままでは事態が収拾しないと思ったのか、私の手を引く女の子。私は大人しく彼女に続いた。少年達には悪いけど、こっちだってかなり疲れが溜まっている。早く休みたいという思いが強い。

「……」
「……」
「……休む前に、少しだけ話でもしようか?」

ふと後ろを振り返り、この世の終わりのような顔をしている少年達を見て、私は思わず足を止めた。そこまで絶望する事じゃないよね。私は何も悪くないはずなのに、謎の申し訳なさを感じるよ。

「ほんと!?お姉さんやっさしー!」
「面白い話沢山してね!」

私が譲歩の姿勢を見せた瞬間、さっきまで落ち込んでいたのが嘘のように少年達はにこっと笑った。この変わり身の早さ…まさか、さっきの態度は演技…。

「お姉ちゃんは優しい人なんだね」
「そうかな…何だか騙されているような気がするんだけど」

女の子に優しく微笑まれ、釈然としないながらも皆で寝室へ向かう。私は彼女に布団を敷いてもらうと、そこに吸い込まれるように入っていった。ああ、久々の布団の感触!猛烈な睡魔が私を襲う。

「お姉さん、さっき約束したお話してほしいな!」
「まだ寝ちゃだめだよ」

そんな私を、少年達が現実に引き戻す。うう、眠たいけど約束は約束だし…。

「私の旅路なんて、特に何の変哲もないんだけどね」

私は上半身を起こし、そう前置きをして旅の話を語りだした。戦争に関するちょっとおどろおどろしい話とか、各地で発見した魔道書の話とか。私にとって身近だったものを題材とする。

「す、すごい!」
「魔道書の話、クリフさんとか喜びそうだよな」
「…戦争ってこわいのね」

少年達や女の子にとって、それらは未知のものだったようだ。彼らは驚き、笑い、時には恐ろしい話だと身を震わせる。なんだか、これだけ反応があると照れくさいというか何と言うか。子供って純粋で眩しいなあ。

「…という訳で、私の旅の話は終わりだよ」
「すげー楽しかった!ありがとう、ナマエお姉さん!」
「また聞かせてね!」

しばらく話すと、少年達も満足したみたいで感謝の言葉を返される。

(案外楽しかったな)

私は小さく息をつくと、ゆっくり布団に身体を倒した。寝よう。とても眠い。

「お姉さん優しいし面白いし…ロビンお兄ちゃんのお嫁さんになってくれないかなあ」
「だよなあ…よし、作戦を立てるぞ!」
「さっきお姉さんが"準備は大事"って言ってたしね!」

少年達の不穏な話を子守唄にして、口を挟む気力もなく、私は深い眠りについた。兄達の暴走は、常識人の妹に任せよう…。


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