妹(仮) | ナノ


▼ 緑の兄弟



「どうしよう」

広場内を徘徊しながら、きょろきょろと周りを見渡す。ほとんどの人が既に二人組を作っているようだった。くっ…予想以上に残っている人がいない。兄さんがさっさと承諾していればこんな事にはならなかったのに。

(…あれ?)

兄さんへ呪念を送っていると、ふと広場の隅に目が留まった。なんだか人影が見えたような…。

「……」

急いで足を運ぶと、緑髪の男の子が弱った顔で、ポツンとそこに佇んでいた。彼に相手がいる風には見えないし、これは好機だ。

「こんにちは、きみ一人?」
「…こ、こんにちは」

ナンパみたいな言い回しだなと思いつつ、男の子に声を掛ける。彼はびくっと肩を震わせた後、私を見て目を瞬かせた。

「もしかして、あなたもまだ二人組を…?」
「うん。私と組んでもらえないかな」
「!…はっはい、ぼくで良ければぜひお願いします」

九死に一生を得たみたいな表情で、ぺこりと頭を下げる男の子。よっぽど困っていたとみた。私としても助かったのでお互い様だ。

「こちらこそよろしく。私はナマエ」
「ナマエさん、ぼくはライアンです」
「ライアンは…見たところアーチャー?」
「はい、まだ未熟ですが…」

自己紹介もほどほどに、模擬試験に向けての話を始める。ライアンは私の腰元をちらりと見ると、窺うように視線を向けた。

「ナマエさんは…剣士ですか?」
「うん、あってるよ」

満面の笑みでそう答える。祖父の教えで、幼い頃から剣の訓練をしてきた。自惚れかもしれないけど、ちょっとは腕に自信がある。まあ、試験でどこまで通用するかは分からないけど…。

「次!そこの二人!」

前の人達が終わったみたいで、兵士がこちらにやってくる。

「よし!頑張ろう!」
「せ、精一杯頑張ります!」

大丈夫。兄さんの言う通り、この日のために訓練をしてきたんだから。私は自分に喝を入れると、ライアンと共に歩き出した。今すべき事は、模擬試験で全力を尽くす事のみ。


#


「ナマエさん、さっきは本当にありがとうございました」
「私こそ!ライアンの援護のおかげでやりやすかったよ」

模擬戦をなんとか終えた私達は、広場の隅に戻って話をしていた。この後マルス様からのお言葉があるらしいけど、まだ他の所では試験が続いていて時間の余裕がある。

「それにしてもぼく達…合格したんですね…!」
「本当に良かった…」

興奮覚めやらぬ顔でそう言うライアン。私もしみじみと頷いた。彼が言うように、私達は無事試験に合格することができた。ひとまず安心だ。

「これから従騎士の仲間として、一緒に学んでいく事になるね」
「確かにそうですね…ナマエさんが一緒だと思うと、とても頼もしいです」
「ありがとう。何かあったらいつでも相談にのるから、気軽に声をかけて」
「…はい」

少しはにかんだような笑顔に心が和らぐ。出会って間もない間柄だけど、私はライアンに特別親しみを抱いていた。彼の素直な人柄がそうさせているのかもしれない。

「…ナマエさんって、もしかして妹や弟がいますか?」

穏やかな空気に表情を緩めていると、ライアンが突然そんな事を聞いてくる。

「いきなりどうしたの?」
「あ、いえただ、ナマエさんはすごく優しいし面倒見もいいなと思って…」
「あはは、私には兄が一人いるだけだよ」

多分その世話の焼ける兄のせいで私は面倒見がいいんだと思う。

「お兄さん、ですか?」

"兄"という単語が気になったようで、私の言葉を反復するライアン。

「あれ、ライアンにもお兄さんがいるの?」
「はい。ぼくにも一人兄がいまして__」
「ライアン!ここにいたのか」

そこまで話したところで、少し遠くからそんな声が聞こえた。見れば、緑髪の青年が駆け足気味にこちらに向かってきている。ライアンの事を知っているようだけど、知り合いか何かだろうか。

「ゴードン兄さん!」
「…ん?兄さん?」
「はい、あの人がぼくの兄です」
「へえー」

ライアンにそう教えられ、再び青年の姿を眺める。そう言われてみれば兄弟っぽいかも。だいぶ失礼かもしれないけど、幼げな容姿がとてもライアンに似ている。

「ふぅ…探したよ」

走り回っていたのか、額に滲んだ汗を手の甲で拭う青年。彼はこちらに来ると、まずはライアンに優しい目を向けた。

「ライアン、合格したんだってね。おめでとう」
「兄さん、ありがとうございます」
「でもまだ正騎士の試験があるんだから、気は抜かないように」
「…はい!」

交わされる兄弟らしい会話。ライアンの視線からは兄への尊敬が見て取れた。きっと仲の良い兄弟なんだろう。

「それできみは…ライアンと二人組になってくれたんだね」
「はい、ナマエといいます」

続いて彼の視線がこちらに移る。軽く頭を下げた後、私は改めて相手を見つめた。なんというか、柔らかい雰囲気を纏っている人だ。歳は私より上だと思う。多分。

「ぼくはゴードン。ライアンの兄だよ」
「存じています、先ほどライアンと兄の話をしていたので」
「あ、そうだったんだね…もしかして、ナマエにもお兄さんがいたり?」
「まあ…いるにはいます」

置き去りにした兄さんの顔が脳裏に浮かぶ。カタリナはちゃんと手綱を握れているんだろうか…。

「ところで、兄さんはぼくに用事でもあったんですか?」

ライアンが不思議そうにそう尋ねる。それに対してゴードンさんは軽く笑った。

「いや、特に用事はなくて、ただ様子を見にきただけなんだ」
「そうだったんですか」
「試験云々の前に、二人組の相手がいないんじゃないかと心配になってさ」
「兄さん…それはあんまりですよ」
「あはは、冗談だよ。そもそも杞憂だったみたいだしね…改めてありがとう、ナマエ」

私に対して目を細めるゴードンさん。むしろお礼を言いたいのはこちらの方だ。ライアンが相手で本当に良かったと思う。

「ゴードン殿!少しこちらへお願い致します!」
「わかった、すぐに行くよ!…じゃあ、ライアンとナマエ、また後でね」
「はい兄さん」
「また後ほど、ゴードンさん」

兵士から呼ばれたゴードンさんは、私たちに軽く手を振り、また人混みに戻っていった。弟想いで、親しみやすい人だったな。

(………ん?ゴードン"殿"?)

そこまで考えて、重大な違和感に気付く。

「……ね、ねえ。もしかしてゴードンさんって」
「兄さんはアリティア正騎士なんですよ!」

恐る恐るそう尋ねれば、ぱあっと花が咲いたような笑顔でライアンがそう答えてくれた。兄への憧れに目を輝かせる彼は、とても微笑ましい。いや違う、そうじゃなかった。

「先輩騎士にあたる人じゃないか…!」

思わず額を押さえる。てっきりゴードンさんも志願者だと思ってたよ!会話の中で不躾な態度とかとってなかったかな。た、多分大丈夫かな。うん。次にお会いした時は、私もゴードン殿と呼ぶことにしよう。


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