妹(仮) | ナノ


▼ 変わり者の部屋



「ひ、広いね」
「確かに広いですね…」

マルス様のお言葉で、試験が締め括られてから少し。ライアンとそんな話をしつつ、私はアリティア城の長い廊下を歩いていた。広すぎて正直迷いそうだ。広場もだけど、城の内部も大概だなあ…。さっき見取り図を配られたけど、迷子にならない自信がない。

「それにしても、まさかライアンと小隊が一緒なんてね」
「もしかして、模擬戦の二人組で決めてるんじゃないでしょうか」
「そうかもしれない」

従騎士試験に合格した者は、これからこの城に住み込み、騎士としての腕を磨いていく事になる。肝心の部屋割りは、どうやら小隊ごとに区切っているみたいだ。

そんな訳で、私とライアンは第七小隊部屋を目指している。どんな感じの部屋なのかな。他にも訓練場、食堂、書庫…気になる場所はあるけど、まずは個別部屋が先だ。

「小隊の仲間はどんな方達なんでしょう」
「それも気になるね」

ジェイガン様から、第七小隊は六人だと聞かされている。私とライアンを除いて、あと四人という事だけど…なるべく変人以外が好ましい。

「…あ、ここみたいです」

しばらく歩くと、ライアンがある部屋の前で止まった。壁には"第七小隊"と書かれた札が掛けてある。

「誰かいますか?今から部屋に入ります」

一応断りを入れて、ゆっくりと扉を開ける。私たちが一番乗りだったみたいで、部屋の中に人の気配はなかった。内装はまあ普通と言ったところか。中央に長方形の机と椅子、壁際には本棚がある。たぶん軍議用の部屋なのかな。

「あれ?部屋の奥に扉が二つあるみたいです」
「本当だ…なんだろう」

とりあえず私が右、ライアンが左の扉を開ける。どうやら寝床だったようで、簡素なベッドが数個並んでいた。少し高めにある小窓から、日の光が差し込んでいる。なかなか過ごしやすそうな場所だ。

「えっと…こっちが男部屋で、あっちが女部屋でしょうか」
「うーん、そうみたい」

ライアン側もそんな感じの寝床だったらしい。軍議室の奥に寝室。まあ、合理的な造りではあるのかな。

「…失礼します」

興味深げに部屋を見渡していると、入り口の扉を開く音が聞こえた。そういえば、私とライアンの他に第七小隊の仲間がいるんだっけ。一体どんな人が来たんだろう。

「…ナマエ?」
「あっ、カタリナ!?」

振り返ると、そこには見知った顔がいた。城門前で出会った儚げな少女、カタリナだ。思わず駆け寄ると、彼女は幸せそうに笑みを浮かべた。

「ナマエも第七小隊なんですね、嬉しいです」
「私もだよ」

お互いにぎゅっと手を握り、一緒になれた喜びを分かち合う。現状、女の子で騎士を目指している人は少ない。変人どうこうの話以前に、こうやって同性の友達と仲間になれたのは本当に幸運だ。

(………あ、でも、カタリナがここに居るってことは)

そして、私は恐ろしい事実に辿り着いてしまった。

「ナマエ、お前も第七小隊だったのか」
「に、兄さん!」

聞き慣れ過ぎた声に、反射的にバッと飛び退く。そうだ…模擬戦の二人組で小隊を決めていると仮定するなら、兄さんが一緒でもなんら不思議ではない。正直なところ、この兄とは小隊が別であって欲しかった。

「ナマエさんのお兄さん…?あ、あの、ぼくはライアンっていいます」
「おれはクリスだ、よろしくな」

ライアンが、おずおずと兄さんに挨拶をする。それに対して、兄さんは爽やかな微笑を浮かべた。良かった、普通だ。ほっと胸を撫で下ろし、兄さんの下へ歩み寄る。

「てっきり、二人組の件で何か言われると思ってたんですけど…杞憂でしたね」
「ナマエも馬鹿だな、おれは別に気にしていないぞ。話は変わるが、ナマエはライアンみたいな年下が好みなのか?」
「話が変わっていないような」
「年上も良いものだぞ、オレとかな」
「兄さんと私は双子ですし、それ以前の話だと思うんですけど…」

やっぱりこの兄とは小隊が別であってほしかった。

「まあ…冗談はさておき、あと残るは二人か」
「冗談ですか!」
「すまん、お前の反応が面白くてつい」
「勘弁してください…」

少しだけ意地悪そうに笑う兄さん。普段は真面目な人なんだけどなあ…たまにこういった冗談を言ってくるから困る。兄さんの言う通り、小隊のメンバーはあと二人。まともそうな人だと良いな。

「おっ!ここが第七小隊部屋か!」

そう思っていると、唐突に扉が開き、オールバックの青年が堂々と部屋に入ってきた。

「オレはルーク!暁の聖騎士ルークと呼んでくれていいぜ!」

___強烈すぎる自己紹介と共に。

「うん、よし、よろしくルーク」
「ナマエ、悟りを開いたような顔になっているぞ」
「兄さん、気のせいですよ」

大丈夫。ルークは発言が馬鹿なだけであって、きっとまともな人間であるはずだ。そう信じよう。

「遅れてすまない。私はロディだ、よろしく頼む」

続いて部屋に入ってきたのは、いかにも真面目そうな茶髪の青年だった。落ち着き払った雰囲気を醸し出していて、知性的な笑みをこちらに向ける。その挨拶に対し、一番始めに反応したのはルークだ。

「おっ、ロディも第七小隊か」
「ルークもか…やはり模擬戦の二人組で決めているらしいな」
「二人とも知り合いなの?」
「まあ…そうと言えばそうだな」
「オレ達は相棒だからな!」

ふむ、つまりロディがルークの保護者という訳か。ルーク関連で何かあったらロディを呼ぼう。


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