3.西から来た巫女は北へ

 迷いの森、小さな村の北側を覆う黒い森。風は北へ吹き込む。その先には丘の連なる地、風が踊る場所。天への気流がある場所にはある竜の一族も住まうと言う。小さな果ての村は、更なる果てへの道標。かつては人と竜も交わりがあったが、この時代の絆は薄い。足が遠退くうちに引かれた、黒い森は一つの境界。

 境界線は神話も閉じ込めた。
 竜の遊ぶ丘を抜けることができるだろうか。丘の向こうにはお伽噺を知る者たちがいるという。彼らは古い時代から存在し、神話と今を結ぶ。少しだけ長生きしている。長い生は、代替わりと共に忘れてしまうものを留めている。奥地は幻の生きる場所だが、人はそれをも神話だと思い、現世に地図の空白を許した。寛容あるいは無関心から幸いにも残された野原。そこに子等が集い遊ぶ。


 西から来た巫女は北へ。
 風を辿って奥地へ行くのも良い。北に楽園はあるか。それを探してもいい。北は空白なのだ。暖かくして発とう。猫一族の従者は寒がるだろうか。いいや、彼は風猫。風吹き抜ける場所ならばどこへだって来てくれる。
「風はどちらへ」
 寛ぐ風猫に案内を求めてみる。猫が追い回して散らした彼や彼女のことを聞いているのだが、当猫はすでに忘れてしまったか、表情の無い瞳と笑った口元で見返すばかり。巫女は獣ではなく自分を信じる他無い。でなければ星にでも尋ねようか。……ああ、幸運の黒い星に巡り会ったと思ったのに!星影はまた闇の中。いいや巫女よ、そうは嘆かないでおくれ。星は瞬くものなのだ。
よくよく空をご覧。地上ではないよ。空をご覧。



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/ぱらり→



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