2.竜の血色を辿る
揺らぐ木の葉の間に星を見た。葉の空に煌めく夜。白の中の闇。図と地の反転した視界、頭上を廻る天盤。
道は天盤に書かれているのではない。大きな竜の尾を掴むのではなく、血の中を泳ぐ小さな竜、そいつに任せる。進むことは、得ることではなく捨てること。竜がもう一度心臓を喰らいに来る。赤い川を流れるまま。
竜の血色の悪魔。血の竜が流れるのを見ている。
夜には竜を現実に遊ばせて。
――あ、風。
風を捕まえる。するりと逃げていく。でも追わない。立ち尽くす。しかしどうだ、音は今や自分の呼吸だけ。ほんの僅かな切っ掛けがスイッチになるものだ。思い出す。クロとはぐれてしまった。森の散歩でもしようか。それとも夢見でもしてみようか。
「私にも星が見えるわ。」
何もない隙間の空。彼女は自分の手を空に透かす。白い手が、どこかから届く星明かりに透けた。
「黒色の一つ星。」
彼女はクロを探しはしなかった。
人の姿に似た悪魔。きみは苔むしてはいるが、ガーゴイル、恐ろしい風貌で煌めきを守る番人とも、宝の輝きと眠るドラゴンとも違う。血を誇れ。竜の血色の悪魔よ。
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