彼の幸せ7
味見係で呼ばれた俺は何をするでもなく、リビングで料理する姿を見ていた。
なんか、降谷の野郎距離近くねぇか?
などと気にかけながら。
「ほら松田の兄ちゃんの番だよ!」
「あぁ」
向かい側に座るコナンとの間の机にはチェスが鎮座している。
それを見るのは家主の工藤優作。
俺もコナンも彼に惨敗して、勝負を諦めた。
流石は世界屈指の推理小説家であり、探偵と名高い男。
とキッチンを気にかけながら駒を進めると
「…あ」
「おや」
「…チェックメイト」
カツンっと王手。
「ミスった…はぁ…」
「キッチンばっかり見てるからだよ〜
どうせ美織姉ちゃん見てたんでしょ〜」
「まぁな」
むすっとするコナン。
くすくすと笑う彼女の兄に少し居所が悪くなる。
「もう1回」
ガキに負けたままでいられっか。
と駒を戻して再戦を申し込む。
少し気を抜けばすぐに王手がかかり、気が抜けない。
昔警察学校で萩原や降谷、その他数人とチェスをした頃を思い出した。
全員こいつのように食えない野郎だった、とポーンを進めた。
が
「あぁ美織さん、そこは…」
「ひゃっちょっ安室さん…!」
近い!と肘で降谷を遠ざける。
「えぇ…そんな邪険にしなくても…」
「普通に近いから!!梓ちゃんにもそんな近づいてるんじゃないでしょうね!?」
「やだなぁ…誤解ですよ…」
苦笑する降谷に久々に殺意が湧いた。
くっそこいつなんでこんなに顔いいんだよ。ムカつく。この間の沖矢といい顔面良い奴集まりすぎなんだよ。
「おうコナンちょっと安室の野郎締めてこうや」
「賛成」
「程々にね」
「はい」
ガシッと降谷の腕を掴み、コナンは服の裾を握った。
「え、ちょっ松田…さん…?コナンくんまでどうしたんだい?」
「ちょっとこっち来いやふ…安室さんよ」
こえぇ…。降谷って呼びかけたら秒速で周りに見えないように睨んできやがった。
「なんですか?急に…
僕は今──「あら?お話?今もう美織ちゃんが見てくれてるから大丈夫よ〜?」く、工藤さん!?」
「だそうだわ。こい」
ズルズルと二人がかりで廊下へ引く。
──────
「おい降谷。てめぇ」
と松田が言いかけたところで安室、いや降谷は松田の言葉を遮った。
「待て松田。いくら何でもこんなところで──「安室さん…美織姉ちゃんに気があるわけじゃないよね?」はぁ?」
新一からの思わぬ質問に降谷はきょとんとした。
「い、いや、なんでそんな話になってるんだ?
というかこれでも俺は任務中だぞ!」
「ここなら安全だよ。で?どうなの?」
「おう、どうなんだよ。こちとら死活問題だ」
「松田の兄ちゃんにも絶対にやらないから」
降谷は悟った。あ、これめっちゃくちゃめんどくさいことに巻き込まれた、と。
「任務が終わるまで色恋なんて考えてられるか!
弱点を作る訳にはいかないし、これ以上守るものなんて増やせない」
今は任務が優先だ、と言い切った降谷に、松田は小さくため息をついた。
「それはそれでどうかと思うぞ降谷。
守るものが増えればその分強くなれる」
「放っておけ」
そう言うとキッチンへ戻って行った。
それから二時間ほど煮込めばビーフシチューの完成である(本当はもう少し煮込みたのが降谷の本音)
各々皿によそわれてスプーンを持つ。
「美味しそうだね」
「いただきます!」
と子供を皮切りに皆が食べ出す。
人参は先の通り星やハート、花柄などたくさんの種類があるが…
「あ!松田のお兄さんの!美織お姉さんのハートだー!」
「あ?」
スプーンに乗ったハートはただのハートでなく真ん中にもハートがくり抜かれている。
「!?は、え!?」
「美織ちゃんが唯一くり抜いたハートそれだもの!」
「で、ででででもほかも誰か抜いてるでしょ!?」
「ううん!そのハートは特別だからって一つだけだよ」
歩美が素直に答えた。
動揺してるのは美織と松田、新一である。
「や〜ん!素敵!それって運命〜!?」
横で盛り上がる園子&蘭の女子高生ペアに狙って入れただろう有希子。
そんなこと、とうに見透かしてるだろう優作は黙々と食べる。
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