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彼の幸せ8

先日聞いた話。
佐藤刑事と高木刑事が付き合うことになった。という事、それに嫉妬していた(?)白鳥刑事も新一の担任の先生という本当に探していた彼女が見つかった。

全部が松田が死んでいた時と同じように世界は回っていた。
この世に偶然などない。あるのは必然だけ。
何かで読んだ魔女の言葉を痛感した。

そんな中、新一に呼び出され工藤邸へ赴く。

「お待ちしてました。美織さん」

部屋に待っていたのは沖矢昴、そして私を呼び出した甥の新一。

「…なんの御用ですか?」

「なに、少し野暮用さ」

ピッと何かを切れば先までの声が低い別人の声に変わってしまった。

「…どなた?」

あえてしらを切ろう。
何を考えて私にバラしたのか知らないが、情報を持つ者を増やすのは漏れやすくなるため得策ではない。

「美織姉ちゃんも一回会ってるよ。
沖矢昴、じゃなくて」

「FBI捜査官の赤井秀一です。
以前杯戸中央病院でお会いしました」

「…へぇ、FBIの方だったんですか。
だからコナンが急に兄さんの家に住まわせたんですね。それで?私にどうしてそれを?」

「この家で過ごすにはあなたにも知っていてもらわないと動きづらいと判断しての事です」

「敬語、外してもらって結構ですよ。
年下かと思いますし」

「ほぉ、ならばそのように。
この家で匿ってもらっている以上、君や君のお兄さんにも迷惑をかけてしまう可能性がある。ならば、知らないで自衛できないより知って自衛してもらおうとぼうやと話し合ったんだ」

なるほど。
まぁ間違ってはいない。

「分かりました。確かに事前に知っていれば多少は自衛できます。気をつけますね」

話はこれで終わりだろう。
玄関から出ると

「美織!」

「!?ま、松田!?」

「っ…」

車から降りて走ってきた松田に腕を引かれ助手席へ押し込まれる。

「ちょ、ちょっと何!?」

「だぁってろ!」

「はぁ!?」

車は発進し、道を駆ける。

───その頃の工藤邸

「ちょっ松田さん!?なんで!?」

「あの二人は少し見ていて歯がゆくてな。
少し仕掛けさせてもらった」

カランッとグラスの氷を鳴らす赤井。

「なんで!?」

「君もそろそろ姉離れをした方がいい。
あぁ、6歳ならまだしなくていいのかもしれないな?」

クスリと笑ってバーボンをひと口飲んだ。
そんな姿に新一は苦虫を噛み潰したような顔をした。

────────

無言で車を走らせる松田。
どこか目的地は無さそうで適当に流してるように見える。

「ちょっと松田。ほんとになに?」

「…」

無言の彼はいつもより少し威圧感がある。
流石は刑事、とも思う。まぁもう爆処理に戻ってはいるのだが。

暫く走らせると高台の駐車場についた。
運転席から降りた彼に倣って車を降りる。

「ん」

とこちらに出された手に戸惑っているとぐいっと強引に手を引かれる。

「ねぇってば…!」

手を引かれて2分ほど歩くと


「う、わぁ…」

高台は米花町と杯戸町にそのほかの街を一望できた。
真正面には沈みゆく夕日。

街は紅く染まっていた。

「綺麗…」

こんな所知らなかった。
ずっとこの街で育ってきたのに。

「本当は、もっと順を追ってここに連れてくるつもりだった」

松田がこちらを見て話し始めた。
珍しくサングラスも取って。

「俺はお前に惚れてる。10年以上」

直接的に言われ、恍ける訳にもいかなくなった。

「ずっとちゃんと言わなかった
察しろって思ってた」

夕日を背中に真剣に語る。

「好きだ。美織」

分かっていた。

「ちがう、ずっと逃げてたのは私。
松田には松田に似合ってる女の人がいるって言い聞かせて知らないふりしてた。勘違いだったらって、離れられるのが怖くて」

悪いのは私だ。
怖がって何もかもから逃げていたから。

「…信じられなくて。ずっと、今更だけど
ごめん。
でも、私も、松田が好き」

ふと松田から顔を逸らす。

「なんだと思う…」

急に気恥ずかしくなってきた…

「…思うは余計なんだよ」

苦笑して、私の腕を引きそれ以上喋らず抱きしめられる。
ずっと逃げていた温もりは、なんだか心地よかった。

彼の幸せ

それを決めつけていたのは私の方だった。


───────

「ていうかなんで工藤邸に?」

「は?お、お前…沖矢に告られたんじゃ…」

「え、なにそれ。知らんけど」

無言で見せてきたメールには

『何もしないのなら私が彼女を貰い受けます』

とだけ書かれていた。
赤井さん何してんだ…


その時赤井は変わらずリビングでバーボンを飲み、携帯から該当のメールを削除した。




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