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食い扶持確保

「…ところで敦」

「はい?」

「貴様、今日の波香の飯は準備できるのか」

ピタリ、と敦の体が固まった。
敦は就職できたとはいえ初任給は未だ出ない。つまり、無一文である。

「おやおやぁ〜参ったねえ〜成長期の波香ちゃんをこれ以上また食べさせられないなんて、保護者としてはいけないねぇ〜」

悪い顔をする太宰に、油の切れたブリキ人形のようにギギギギと敦は彼に振り返る。
ピラピラと財布を振りかざす太宰に波香は足元に駆け寄り「ごはん」と太宰の顔を見上げた。

「それじゃあ私と心中する?」
「ちょっと太宰さん!!!」
「この阿呆!いや、変質者!」

国木田と敦は太宰のその発言に詰め寄った。

「心中はできないけど」

そう零した10歳にも満たない幼子の発言に固まるのは敦、国木田である。

「波香!?そんな言葉どこで覚えたの!?」

「本で読んだ」

「いつ!?」

「院で」

院長〜〜〜!!!とここにはいない人間を敦は頭の中で罵倒した。
もちろん彼はその院長が恐ろしい存在であるとインプットされているため、目の前にした際はそんな風に罵倒することなどは不可能なのだが。

「波香ちゃん、その言葉は忘れましょうね?」

と苦笑したのはナオミである。


ガチャンと扉を開き入ってきた白いブラウスに黒のタイトスカート、黒いハイヒールを履いた女性である。

「話は聞かせてもらったよ」

カツカツと靴音を響かせ女性は波香に近づく。

「妾は与謝野晶子、これでも医者さ。
だからねぇ、こんな成長期前の子供がちゃんと飯を食べないってのは見逃せないンだよ。
今日は妾と夕飯食べないかい?」

「与謝野せんせい?」

「そう。いいかい敦?」

「ぜ、ぜひお願いします」

「それじゃあいこうか」

「はい」

食い扶持の確保に忠実な波香のたくましさに、敦は「喜ぶべきか悲しむべきか…」とうなだれていた。

*










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