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親子の再会
「あら……」
「どうしたの?」
アリスの見てる携帯を覗き込もうとする太宰を「見ないで」と制し、画面を切り替えた。
「私に隠し事かい?」
「全部話す義務はないわ」
とそれを鞄へ仕舞うと太宰と肩を並べて歩き出した。その時、路地から何やら若者の話し声が聞こえる。
「ずっとここにいない?」「あ、瞬きした」「動いた!」
と云う声の後、アリスは服の裾を引っ張られる感覚に振り返れば、太宰も同じ感覚に振り返ったようで二人して背後を見る。
そこに立っていたのは赤い着物を着た黒髪の少女。
「え? 私?」
「えっと……」
「見付けた」
少女がそう云ってアリスと太宰を見上げた。
ゴォッと風圧にも似た圧力を体に感じる。
二人を上から大きな影が覆った。
「これは拙い」
「っ……成程ね」
──────────────
ふ、と意識が浮上した。
目を開くと見慣れた頭上。しかしそれはここ一年見ていた天井ではない。
ジャラリと重く硬い枷が手首に回され体はどこぞの王宮だとでも思わせるキングサイズの柔らかな寝台に横たえられている。その天蓋からは美しいレースを真っ赤なカーペットへ下ろしている。
「あーあ、やられた」
重みを感じる金属音を響かせて体を起き上がらせ、その重い腕を顔の高さまで持ち上げた。
「……あー、だめね」
「何がダメなんだい?」
コツン、と気配もなく突然部屋の入口から聞こえた靴音。職人達が魂を込めて彫り込んだろう荘厳で豪奢な扉が開かれ、そこには黒い外套、赤いストールにスーツを纏った男性が金髪の少女を従えて入ってきた。
「コレ、完成したのねぇ……異能力、無効化の枷」
「あぁ、試作品だよまだ。でも、その様子だと成功のようだね」
「えぇ、ムカつくほどに効力は良好よ。
お父様?」
森鴎外
────能力名『ヰタ・セクスアリス』
森アリスの父親である。
「もうパパとは呼んでくれないのかい?」
「はぁ? 十何年前の話をしているの?
気持ち悪いクソロリコン」
「非道い!」
「リンタロウ気持ち悪い」
「エリスちゃんも非道いよ!」
「アリス〜会いたかったわ
黙って出ていっちゃうんだもの」
非道いわ、と頬を膨らませてベッドへ乗り上がるエリスに苦笑して頭を撫でた。
「とりあえず、おかえりアリス」
「太宰は?」
「……彼のことはもう忘れなさい」
「勝手ね。彼に私を押し付けて、彼が敵に回れば、途端に手のひら返し?
そんなに私が最適解に必要?」
「最適解を求めるならば今ここで私が首領として処刑している。突然の任務放棄に失踪。果ては敵対組織への情報の流出」
カタン、と寝台横の椅子に座れば途端に森鴎外からはポートマフィアの首領に相応しい圧が放たれる。その顔は底知れない笑みを浮かべ、背後には幻覚だろう深い深い闇が顔を覗かせ、その深淵をアリスへ見せつける。
「アリス、私はね、父としてお前を心配しているんだよ。幸せになって欲しいんだよ」
そっ、と添えられた手をパシンっと弾き返して伏せられていた顔を父である森鴎外へ、よく似た底知れぬ闇を携えた笑みを送った。
「私の幸せを決めるのは私よ。あなたじゃない」
パキンっ
甲高い金属音を立てて手枷が弾け飛び、布団へ沈む。次の瞬間には既に両足を床に付け立ち上がって身構えている。
「……流石だねぇ……太宰君の指導の賜物かな?
矢張り、彼には……」
「……あら、止めないのね」
「枷を外されてしまえばアリスを無力化するのは骨が折れる。私に娘を傷つける趣味はないからね」
「随分と……いや、いいわ。
さて、と」
パチンっ
指を鳴らせば、森鴎外の趣味だろう赤と白のドレスからフォーマルな衣服が身を包んだ。
「そんなにそのドレスいや?」
「動きづらい。目立つ」
「私とお揃いだったのに〜!」
「ごめんねエリス。それじゃ、もう二度と会わないことを祈ってるわ……クソロリコン」
「パパって呼んでよ!」
フッと姿を消したアリスには悲痛な叫びが届かなかった。
─────────
コツンッ
黒いパンプスが硬いアスファルトに着地し、音を立てる。
「さて、と……
いるとなればきっと地下よねぇ……」
拷問部屋か、処刑待ちかしら?
アリスは思考を巡らせ歩き慣れた廊下を闊歩する。その姿は決して敵陣を歩いているようには見えない。自宅を歩く様にすら伺えた。
*
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