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ヨコハマギャングスタアパラダヰス












バンっとアリスは扉を開き入ってきた。

「森! 貴様も仕事に───なんだまたその格好か」

アリスは服が半年前の服装となっていた。
つまるところフリフリのロリータ衣装である。

「えぇ、天の啓示だもの。
地位と権力(ちからを体現するならこれが一番なの」

「はぁ?」

その隙に太宰は取られたヘッドフォンをスりアリスの頭に嵌めた。

「いらなぁい」

「あっそう」

スポッと返事した太宰へヘッドフォンを返し、同じようにソファに座る。

二人の様子に呆れた国木田はそれ以上に言及することをやめた。

「太宰〜、これとこれどっちがいい?」

アリスが朝に買った雑誌のページを見せて好みを聞けば「こっち」と指を指してきた。

「こっちの子の方が好みかなぁ〜」

と付け加えたのでアリスの目はスっと冷たくなる。それに気づいた太宰は「冗談さ」と取り繕ったように笑う。「アリスならば何を着ても似合うさ。その服だって私は好きなのだよ?」

「……はぁ、あんたに聞いたのが間違いだったわ」
「アリス」
「あら、そろそろ?」
「嗚呼、向かおうか」

ソファから立ち上がった二人に国木田が気づいた。

「おい! 何処へ行く!」

「ひーみつ」

「なにっ」

バタンっと締められた扉に国木田の口撃は遮られた。

──────

「龍之介も来てるの?」

「あぁ。全く……彼は今でも独断専行だねぇ……部下をもてたのが不思議なくらいさ」

「もう随分と優秀よ」

「……随分と君は彼を評価しているねぇ」

「貴方が厳しすぎるのよ」

「アリスには言われたくないよ……却説、頼めるかい?」

到着したのはビルの裏。どん詰まり。

「太宰がスキを作れば」

「それは心強い……はぁーいそこまでー」

殺伐とした空間には敦である白虎と男の外套から伸びた鋭い物が激突する直前。太宰が間に入れば手先に触れた白虎は敦に戻り、男から伸びた物は砂のようにさらさらと消えた。

「!」

「貴方探偵社の……何故ここに!?」

驚いた依頼人の金髪の女────樋口は太宰を見る。

「美人さんの行動が気になっちゃう質でね、こっそり聞かせてもらった」

まさか、とポケットに手を突っ込めば手には盗聴器。仕込まれたことに気づかず悔しがる彼女。

「では、最初から私の計画を見抜いて……」

「そゆこと」と云えば彼は能天気に敦にぺちぺちと頬を叩く。

「ま、待ちなさい! 生きて帰す訳には────」

「やめろ樋口。お前では勝てぬ」と喉奥でくつくつと笑う男。そこに現れたのは

「太宰」

「終わったかい?」

声に振り返った太宰の視線の先に樋口と黒外套の──────社を出る前に敦が国木田から「会うな、逃げろ」と忠告された──────男、芥川と共に樋口が驚いた。

「っ成程……共にいるからこそ、貴女が見つからなかったか」

「そんな……お、嬢っ……?」

「久しぶりねぇ、龍之介。と、樋口ちゃん?」

アリスは何でもないように、それこそ一年ほど前のように普通に接した。その手には多少の血液が付着している。いつの間にかナオミと谷崎のすぐそばに立っており、2人とも柔らかな少し大きめのクッションに寝かされ出血が、少し収まっていた。
知らぬ間に二人に手当てを施していた。

「なぜ貴女が……こんなところに……!?
お嬢! お戻りください! 首領がご心配されてます!」

「いやよ。もう『子供』じゃないもの。
私は私の人生を生きるわ……って、父様に伝えてもらえる?」

「……太宰さん、アリス嬢。
今回は退きましょう────しかし人虎の首は必ず僕らマフィアが頂く」

「なんで?」
「マフィアがただの戦闘系異能力者を求めて探偵社に喧嘩売るとは思えないんだけど?
それも、龍之介を派遣してまで」

「簡単な事。その人虎には───闇市で七十億の懸賞金が懸かっている。裏社会を牛耳って余りある額だ」

「あら、景気がいいわね」

「お嬢にも首領から懸賞金が懸かってます」

他人事のように云ったアリスに芥川がそう云った。それを聞いた彼女の眉間に僅かに皺が刻まれる。

「ヘェ、それはお幾らなのかしら?」

「……二千万」

「……太宰、いる?」

「アリスと交換にしては私にとっては低価格だね。まぁ、いくら積まれてもアリス自身の意志でなければ素直に明け渡すわけないけど」

「そう」

「……探偵社には孰れまた伺います。
その時、素直に七十億とアリスお嬢を渡すなら善し、渡さぬなら────」

「戦争かい? 探偵社と?
いいねぇ元気で……」

笑った太宰に芥川は目を細める。

「それとも、私とかな? 何れにしても、やってみ給えよ─────やれるものなら」

ポートマフィアへの侮辱とも取れる挑発に樋口が口を開く。

「零細探偵社如きが! 我らはこの町の暗部そのもの!
参加の団体企業は数十を数え、この町の政治・経済の悉くに根を張る! たかだか十数人の探偵社如き───三日と持たずに事務所ごと灰と消える! 我らに逆らって生き残ったものなどいないのだぞ!
お嬢の隣に居ながらその様な発言をよくも……!」

「樋口ちゃん。そんな事、知ってるわよ」

「あぁ、知っているよ。それ位」

「然り。外の誰よりも貴方はそれを悉知している。それは、お嬢以上に──────元マフィアの太宰さん」

「!」

驚いた樋口が瞠若する。

「元、マフィア……? 真逆……裏切り者……!?
芥川先輩!捕えなくて宜しいのですか!?」

弾の切れた機関銃を太宰に向ける樋口に反射的に手にショットガンを生むアリス。少し微笑んだ隣に立つ太宰が、そのショットガンに触れると跡形もなく消えた。

「急拵えで捕らえられるほどならばもうとっくにお嬢諸共本部に居て、処刑されている」

ニヤリと笑った太宰は「へぇ、冷静に情報分析までできるようになったんだねぇ。
まぁ、まだ役立たずで使えないことに変わりはないけれど」と挑発するように云ってのけた。
その挑発に僅かに顔を顰めた芥川と怒りに盛大に顔を歪める樋口。

「やめなさいよ太宰。
今は彼も上官なのよ。部下の前で貶すものじゃないわ。それより、応急措置はしたとしてももうそろそろ運ばないと危険よ。特にナオミがね」

「そうだね。退くと云っている敵と話し込むのに得などない。じゃあね、仕掛けてみるのならやってみるといい」

「アリスさん……」

「なぁに龍之介?」

「……いえ」

「ほら、アリス行くよ」

ナオミをアリスが、谷崎と敦を太宰が抱えて二人の横を通り抜ける。

「お嬢! 本当にお戻りにならないのですか!?」

「……云ったでしょう?
それに、私は自分の意思でここに居るのよ」

笑って樋口を見据える。

「貴女が、『向いてない仕事』を彼の為にしている様にね」

その言葉に樋口は悔しそうに拳を握りしめた。

森アリス
────── 能力名『不思議の国のアリス』。
『夢』に見た物品を『夢』から自在に取り出せる。
その他様々な性能があり、その異能力は父である森鴎外によって形成されたものである。

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