鮮血色のビターチョコ
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「ありがとうございました」
と笑って建物を出る女性。
しかし建物を離れると足取りは重く、周囲を警戒するようにいる。
勿論、傍目には警戒など感じさせないが。
それが、ここ1年の早苗の日常であった。
仮初などではなく。
日本・東京
米花町に位置するマンション。
「あーあ、ったく、こんなことなら二重国籍でどうにか誤魔化しておけばよかった」
どうせバレりゃしないのに……と、室内には1人であるが思わず出た一言。
もちろん盗聴器の類などは住む直前の内見で職員も自身も確認してある。
電話をしてもノイズも入らない。
22歳の頃、持っていた日本国の国籍を捨て、育ててくれた義父と義母の国籍通りアメリカを選択。
まぁ、拠点を作り上げ、過ごしやすくするぶんには戸籍の有無は大して関係がないだろうが、如何せん身分証明書の提示などが面倒なのだ。
FBIになろうと思った時、勿論動きやすいようにと、日本国籍と共にグリーンカードを取得する事を考えもした。
しかし、日本にいい思い出はない。
それに、国籍は日本では二重国籍は認めておらず少し面倒になる。
これでも政府の関係者に当たるわけだからアメリカで黙認されるのであればそれも悪くないと思った。しかしだ、変に足がついては困る。
日本に情報を置いておくのは些か不安が残った。
PRRRR...
ベッドに仰向けにいると携帯が鳴った。
「はい」
「俺だ」
聞き覚えがない訳では無い。
むしろほんの二年前までは彼の声は毎日聞いていた。
「……オレオレ詐欺ですか?」
最近流行ってんですよねーと軽口を叩く。
「ほぉ、お前の耳はどうやら劣化しているようだ」
「冗談ですよ赤井さん。で、どのような要件で?」
よっ……と、声を少しあげ起き上がる。
「もう少ししたら仕掛ける。
これで晴れて俺は組織からビュロウに帰還だ」
どうせお前の方も拠点の制作はほとんど終わってるんだろう、と言う上司、赤井に早苗がふっと笑い言った。
「そりゃあね、でもこの拠点はじゃあ今じゃなくて今後のための?」
「あぁ、そう簡単に組織は壊れてはくれんからな」
まだまだかかるぞ、電話越しに笑い声が聞こえた。
「なーる。それじゃあ赤井さんの帰還とともに私も晴れて本部に戻れるんですね」
「あぁ。安心しろ。すぐに戻れる、いや、俺とともに戻ってもらう」
その一言に軽く首を傾げると、赤井にはその彼女の行動は筒抜けのようで
「後日連絡する通りに日本を離脱し現地集合だ」
「……ラジャ」
「頼んだぞ」
の一言で耳から離そうとした携帯を再度近づける。
「赤井さん
お気を付けて」
そして終わる平和ボケ彼が強いのは知ってるが、あの組織のこともよく知ってる。
心配せずにはいられないのだ。
もちろん、敬愛する上司として。
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