鮮血色のビターチョコ
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夢を見た。
血濡れた階段、血濡れた廊下。
美しい鮮やかな廊下の赤の絨毯がどす黒い汚らしい黒に近い赤で汚されている。
「逃げるわよ早苗!」
「ママ?」
足の裏はベタベタと真っ赤に染まっている。
母さんは手を引いて外へ導く。
背後には父さんの姿。
彼の手には家宝だと言っていた妖刀・村正が握られている。
「ちがう、ちがうわ、あれはパパじゃないのよ
パパの格好をした悪魔なの」
玄関へ通ずる階段はもう目の前であとは降りるだけであった。
「あっ……」
ずぶりっと背後から伸ばされた刃が母さんの背中に真っ直ぐ刺されていた。
「ママ、せなか、ぼうがはえてるよ」
純粋に、ただ生えてるだけだと思った。
その瞬間、母さんは私の腕を目一杯引き胸に掻き抱き、何も見えなくなると、ドンドンッと派手な音を立て衝撃が走る。
私に覆いかぶさる母さんの腕の隙間から見たら、そこは既に1階で、玄関は開け放たれていた。
ぎゅっと逃がさないように私を抱きしめたまま母さんは叫んだ。
「逃げなさい!
庭を抜けていつもの交番に行きなさい!」
と、誰もいない玄関の扉に向かって。
その声に反応して刀を持った父さんだと思っていたのが走って外へ向かった。
一瞬見えたその人は、確かに父さんの服を着ていたがブロンドヘアーを靡かせていて、とても父さんには似ても似つかなかった。
「いい……?明日、御手洗さんがくるまで、ここをうごい、ちゃ……だめよ」
「ママ」
母さんの体を揺すったら手が濡れて、差し込んだ月明かりにその手が照らされた。
廊下の絨毯みたく、鮮やかな赤が私の手を汚していた。
真っ赤なおてて飛び起きて手を見た。
そこには赤などなくて、でも、この手で確かに母の血を触り、この職に就いてからは何度も人を殺した。
悪人と言われても差し障りないくらいに。
あの、私の家族を殺した女と同じくらい汚れてしまった私の手に吐き気を覚えた。
明日には日本に発たねばならないのに幸先が悪い、と汗をかき暑いのに布団を頭から被った。
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