鮮血色のビターチョコ
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FBIには暗黙の了解がある。
そもそも、日本人でFBIになろうなどと思う者は、相当な変わり者か、ならねばならない事情があるかだ。
アメリカ人であっても警察でなく、連邦捜査局員になろうという者はなにかしらきっかけがある。
人の生き死にを扱い、命が常に危険に晒される職であることから、そのきっかけはその者の心にトラウマとして深く根ざしていることがほとんどであり、
決して軽率にそのトラウマをほじくり返してはいけない。
その中でも、数少ない日本人───と、言ってもアメリカ国籍ではあるが───である早苗がとあるトラウマを抱えているのは今では上層部となった人間達の間では知られていることであるし、そのトラウマに酷似した件は彼女に振らない、振れば面倒なことになる、と一部の人間には知られていることである。
「ジェイムズ!」
「どうしたんだい淺井くん」
「どうしたもこうしたもないですよ!」
噛み付かんばかりに怒りを前面に出す早苗に飄々とジェイムズは言葉を返していた。
「これ! 私を捜査メンバーから外したのはなんでですか!?」
「あぁ、この件か。他意は無いさ
ただ、赤井くんに淺井くんというトップスナイパーのふたりの手を同時に塞ぐのは如何なものかと思ってね」
「本当ですか?」
「あぁ」
平然としているジェイムズに幾分か怒りを納めた早苗はムッとはしているものの先程までの鬼気迫る雰囲気はない。
「……私、もう克服してますから」
と、事務室を出て行ってしまった。
すると、
「他意は無い、というのは嘘でしょう
それに、トラウマだからわざわざ外したわけでも」
と赤井が笑いながら出てきた。
「おや、赤井くん。
居たのなら出てこればいいものを」
「俺が出ればあいつは余計憤慨するでしょうから」
「全く……」
「克服したようで、あいつは克服してませんしね。また暴走するのがオチだ」
「人間は誰だって乗り越えられないトラウマだってあるはず。
心を守るために、逃げることだって必要だと教えたはずだったんだがね……」
「素直に聞くタマじゃないですよ」
「暴走するからね、彼女は」
「ええ、そういえば余計に」
そういうのは一切NGでわざわざ外されるのはムカつくからNG!
克服したと嘘を吐いては必死で取り繕うのはNGだ。
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