こねた | ナノ


青春とはうつくしい(青黄/帝光)

・BD9巻のオリジナルドラマのつづき的な

・青黄ちゃん



「はあっ、はっ、もう、なんで…!?」
「馬鹿黄瀬、走んぞ!」

ぐいと腕を引っ張られ、体を保つためにまた走り出す。走っても走っても人のいない所にたどり着かないのは何故だろう。どれだけ逃げても後ろに追いすがる人が減らないのは何故だろう。そんなことを考えても無駄だとわかっているからこそ、二人はただただ走っていた。

廊下の角を曲がり、特別教室が並んでいる区画へと入る。角を曲がって一瞬人の目が途切れたことを確認して、青峰と黄瀬は音楽室へと転がり込んだ。幸い、人影は見当たらない。
壁伝いに二人して座り込んで、荒い息を整えようと必死に酸素を交換した。部活以外ではかかないと思っていた汗をかいていることに気が付き、はあと溜息を吐く。

――そういえば昼飯、全然食ってねえなあ。

お腹が空いていることに不思議に思った黄瀬だったが、弁当をまだ完食していないことを思い出して納得する。楽しみにしていたおかずもとられてしまったし、今日はもう散々だ。
隣の青峰も同じことを考えているのか、人が来ないか警戒しつつ情けなく眉を下げている。いつもの調子はどこに行ったのやら。

「っくそ、マジ赤司の野郎覚えてろ…!」
「あ!そういや緑間っちと紫っちがいないっスよ!?」
「あいつらのことだから逃げ延びてんだろ、多分!っていうか、なあ、黄瀬」
「ん?」
「腹減ったんだけど」
「そんなのオレもっスよ…」

青峰が期待しているであろう言葉は、生憎だが黄瀬は持ち合わせていない。壁に背中を預けるようにしてぐったりとして見せれば、青峰は溜息を吐いて同じように壁にもたれかかった。かち、かち、と教室に時計の針が動く音がする。暫くそれを聞いていると、隣の青峰が体を起こした。

「どーしたんスか?」
「おう。逆に考えようと思ってさ」
「逆?」

幾分か落ち着いたらしい青峰が黄瀬の方を見て、話を始める。先程黙り込んでいた時に何か考えていたのか、その口調はぶれることがない。

「こういう困ったときほど前向きに考えろって言うじゃん」
「うん。それで」
「いっつもお前と居る時って、バスケか飯食うかのどっちかだろ?」
「あー、そういやそうかも」
「だから、今日はチャンスなんじゃねえかって思ったんだ」
「……あ、青峰っち…?」

隣に座っていた青峰が少しずれて黄瀬の正面に回り込み、じりりじりりと距離を詰めていく。何をする気だ、まさか、と黄瀬の顔から血の気が引いていく。こんな場所で、いや、ありえない。そんな黄瀬の考えを真っ向から破り捨てるように、青峰はずいと顔を近付けた。

「ヤろうぜ」
「はあ!?」
「此処で」
「ちょ、何考えてッ、」
「しーっ。静かにしろよ、見つかんだろ」

あまりの衝撃的な言葉に思わず大声を上げてしまった黄瀬の口を、青峰の手のひらが塞ぐ。逆の手で人差し指を立て自らの口に当てながら、ちらりと教室のドアに目線を向ける青峰。どうやら、此処の教室にいることは知られていないようだ。遠のいていく足音に、二人は胸をなでおろす。が、黄瀬は内心ばくばくだった。

「ちょっと、冗談でしょ」
「あー、流石に突っ込むまでは出来ねえから、そこらへんは勘弁な」
「そういうんじゃなくて!」
「あーもううっせえなあ、さっさと脱げよ」
「ふざけ…っ!もうすぐ昼休みも終わるし!オレら飯もまだなんスよ!?」
「だから腹減ったっつったろ」
「そ、…そういう意味、スか…?」
「そういう意味。お前が脱がねえなら脱がせるぞ」
「うおわっ、青峰っちマジで!?ちょ、あ、腕押さえんな…っ!」
「押さえてねーと殴りそうで怖いもん、お前」
「やめろって、ほんと洒落になんないスよ、見つかったらどうすんスか!」
「見つかったらお前……そん時はそん時だ」
「滅茶苦茶だよこの人!ちょっ、う、わ…っ」




その日の放課後、部活に向かっていた赤司を呼び止めたのは、青峰のクラスの担任だった。

内容は、午後の授業に青峰が出ていないということで。
昼の騒動もあってか、何か知らないかと聞いてきたのだ。思い当たる節は特にないが、しいて挙げるとするならば。一つだけもしかしたら、と思うようなことがあったが、赤司は首を横に振った。

その後赤司が紫原に確認を取ったところ、黄瀬も午後の授業を抜け出していたらしい。黄瀬はきちんと保健室で休みを取る、ということを伝えていたらしいが、あまりにも不自然だ。二人して、あの騒動が起こった後に、授業をサボるとは。


「…オレは、あいつらに反省をしろという意味でこれを仕組んだんだが…」

はあと溜息を吐き、呆れたように外に目を向けた。物事はやはり思い通りにいかないものだ。だからこそ楽しいのかもしれないが。
赤司は人知れず口角を上げて、静かに笑う。

「まあ、部活まで休むってことは、つまりそういうことなんだろうけど」

次部活に顔を出した二人にどんなペナルティを与えてあげようか、とそんなことを考えながら、赤司は体育館へと歩き出した。


その体育館に――二人の姿があるとは、まだ知らないまま。




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リハビリがてらなので小ネタに。
いつか加筆修正して移動するかもしれません

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2013/07/04 22:16

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