こっちを向いて

(2/4)

「みたまえ山崎くん!」
「いえみたくありません」

出勤するなり山南がキラキラとした笑顔で無表情の部下に駆け寄った。
山崎と呼ばれた青年は見向きもせず、しかし絶妙なタイミングで上司の申し出を一蹴した。

「いやいやいや、みてくれよ山崎くんいいものだよ」
「間に合ってます」
「セールスじゃないよ!」

山崎はちらりとも視線を寄越さない。
ただテンポのいい不本意な会話が続いていく。

「今忙しいんで」
「なにもしてないじゃないか」
「胸キュンアニマルの観察に忙しいんです」
「え?どこにいるんだい?何も見えないんだけど」
「心の眼でみればみえます」
「妄想じゃないか!脳内ペットじゃなくこれをみたまえ、この…」
「あーアルパカ可愛い飼いたい撫で回したい」
「聞きたまえよッ!」
「…チッ」
「舌打ち!?」

今日の山南は一段としつこい。
山崎はやはり視線は合わせず語気を強めた。

「くだらないことで邪魔しないでください」
「みてもいないのにくだらないと言い切るのはいささか早計じゃないか」
「みなくてもわかります。どうせ下品なピンク色の何かでしょう」
「!どうして分かったんだい!?」

二人の付き合いは長い。山南がマジックの熱狂的ストーカーであること、山南の発言は約8割がマジック絡みであること、そして先日マジックのファンイベントが開催されたことを考えれば自ずと答えは出る。
山崎は表情こそ変えなかったが、もう声から苛立ちを隠す努力はしなかった。

「みなくてもわかるんですよ」
「さすが密偵……いやでも違うんだよ、ピンクはピンクでも上品なピンクだよ」
「どっちでもいいです」
「いや、そうじゃなくて、あの、違うんだよ山崎くん」
「しつこいですよ山南さん」

山南は必死に食い下がるが、山崎は取り合わない。
言葉は返しても顔を向けすらしてくれない山崎に、とうとう山南は涙声になって叫んだ。


「君のために作ったんだ!お願いだからこっち向いてよ!」


山崎が驚いて振り返ると、山南は「あっ」と声を漏らし、少し表情が明るくなった。
その反応にイラっとしつつも山崎が説明を求めると、山南は恥ずかしそうに話し出す。
聞けば、日頃の感謝を込めて贈物がしたかったのだと言う。

「感謝って…アンタの阿呆に付き合うのも仕事のうちですよ」
「き、気持ちだよ気持ち!いつも助けてもらってるからね」

なるほど、山南が大事そうに抱えているそれは、山崎に贈るためのプレゼントだったらしい。
確かにいつものくだらないマジックグッズだと決め付けるのは早計だったようだ。

「君は気付いてないだろうけど、これでも私は君にすごく感謝してるんだ」

ははは、と山南は照れたように笑う。
山崎はいつもの苛立ちと共にくすぐったさを覚えた。

「あの…受け取ってくれるかい?山崎くん」
「山南さん…」

山崎は差し出されたプレゼントをみて静かに息を吐き、





「馬鹿ですかアンタは」とリボンのかかったマジック人形を床へ叩き落した。



***
まさかの心戦組。ススムさんの書きやすさにびっくり。
ちなみに山南さんは本気です。
本気で感謝を伝えたかったんです。
ほら、プレゼントは自分がもらって嬉しいものを…って言うじゃん?
(悪意がないから余計に性質が悪い)




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