卑しい獣

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無音の部屋に二人分の息遣いとキスの音だけが響く。
荒々しい、噛み付くような口付け。日頃から冗談で犬だと罵っているが、こうしていると彼は本当に獣のようだ。
理性を持たない獣はただ欲求だけを押し付けてくる。人はそれを下等なものとみて慈愛を振りまき、支配欲を満たすのだろう。
決して彼を見下している訳ではない。が、今この瞬間だけは相手を支配した気になれる。
それが、彼のこうした身勝手な要求に応えている理由かもしれない。
後ろ髪をぐしゃぐしゃに引っ掻き回してくる彼はいつも余裕のない様子で。
すがるようにして求めてくる彼になぜか抵抗できず、もう10年以上も前からこんな関係が続いている。

キスはいつの間にか首筋に降りていた。
首の付け根に痛みが走り、噛まれたのだと気付く。
彼は遠慮なく自分の身体に傷をつける。あちこちに散らばる歯型や引っ掻き傷はほとんどが彼につけられたものだ。
彼は決して親友を傷つけられない。だから代わりに自分を利用する。
この身体は彼の親友の代わりに、その狂気的な欲求を受け止めさせられているのだ。
首の付け根からは未だじわじわと痛覚が、そして今生み出されたばかりの快感が神経を刺激する。
彼が傷口を舐めている。
滲んだ血を丁寧に舐め取る彼をみて、やはり獣のようだと思った。



***
アラトリに肉体関係があるならこんなイメージ。
狂気と八つ当たりと情と肉欲。
身体は興奮状態にありながら精神面は冷め切っていて、それさえも快感になる。
欲をぶつけ合うだけの関係。




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