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理科室を飛び出してから3分は経っているだろうか。
私はまだ走っていた。
もう理科準備室からだいぶ離れているし先生が追い掛けてくるはずもない。
(たぶん走って出ていったのが私じゃなく陽菜だったらあの人は全力で追い掛けるだろうけども)
要するに、私が走る理由はない。
なのに、足がいうことを聞かないのだ。
「はっ…」舌打ちの1つでもしたい気分ではあったけど普段運動なんてものとはあまり縁がないせいか荒い呼吸をするのが精一杯で。
「ほん、とに、ありえないっ…」
息切れ混じった悪態は自分の足音に掻き消された。
どれくらい走ったのだろう。
あんなに止まるのを拒否していた足が急に止まった。
けど急に止まった事への疑問よりようやく止まれた事への安堵の方が勝っていた。
「はぁ…はぁ……っどこだろここ…」
呼吸を整えながら辺りを見回す。
まだ夕方だけど廊下は薄暗い。
とりあえず教室で待ってるだろう幼なじみと親友に連絡しなければとポケットから携帯を取り出す。
[秋野恭平]と登録された番号を押す。
数回のコールの後、「はーい?」と間抜けな声が聞こえた。
「あ…恭平?教室にいる?」
「いるけどー?ていうかお前なんか息切れしてない?」
「ちょっと色々あってね…」
「そっか、今どこ?」
「ここどの辺だろ…えーと…」
自分がいる場所の目印を探すしているとあるものが目に入った。
「東の…アリス…」
「へっ?なに?なんて言ったのりょーか」
私の目の前にはあの絵があった。
あの時の恐怖感は感じない。
「りょーか?」
恭平の声で我に帰りこれから教室に向かうと言おうとした。
「お前が捜索者?」
ぞくりとするような冷たい声が真後ろから聞こえた。