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「行きたくない…」

吉沢先生から呼び出しという強烈すぎる単語のせいで午後の授業の記憶がないまま放課後になっていた。
「お前っ!!行かなきゃまじでヤバいぞ?」
「けど先生忙しいから忘れてそうだよー?」
なぜか青い顔をしながら行けと言う恭平と行かなくてもいいんじゃない?という陽菜。
正直言って面倒だし早く帰りたい。
じゃあ帰ろうか、と言おうとしたと同時に
〔2年B組宮原涼華、至急理科準備室まで〕と言う恐怖の放送がかかった。
「「「……」」」
「…行ってきます」放送越しの静かな圧力と二人からの早く行けと言う視線に負けて教室の扉を開けた。

「はぁ…」
大して遠くない理科準備室までの道のりを凄く遠いと感じたのは初めてだ。
「入らなきゃ駄目だよね…」
この扉の向こうに鬼がいると分かってて入るのは勇気がいる。
目を閉じて小さく深呼吸を2、3回繰り返す。
ようやく心が決まった。
目を開いて扉に手を掛けると一気に開いた。
「失礼しま「遅いですよ?」
決めたばかりの心が少し折れた。
「まぁ座って下さい」
先生が目の前の椅子を指しながら言う。
正直そこは怖いので嫌です、とは言えないので大人しく座った。
「何故呼ばれたか分かってますね?」
にこりとしながら私に言う。
その笑顔から、分からないなんて言わないよな?という圧力をかなり感じる。
分かりません、なんて冗談でも言えないしそもそもなんで呼ばれたかを分かってるので素直にハイと言っておいた。
「授業中に寝ててすいませんでした」
思いきり頭を下げた。
勢いがよすぎておでこを膝に打ったのは内緒。
「…まぁ初犯ですし今回は見逃しましょう」
本当はもう少し糾弾したかったですが、という言葉は聞かなかった事にする。
「今日は陽菜と帰るんですよね?」
陽菜を待たせるのはよくありませんから行っていいですよと言うのでじゃあ失礼しますと言って椅子から立ち上がって扉に向かう。
扉に手を掛けたところで後ろから先生の声。
「あぁ、そうだ。陽菜や秋野が何か企んでるようですが」
…バレてたの?
冷や汗が流れる私に構わず先生は
「陽菜になにかあったらどうなるか分かりますよね?」
「……しっ、失礼しますっ!!」
思わず噛んでしまうくらい恐ろしい声に全力で部屋を飛び出した。
教室とは反対方向に走っているとは気付かないまま。