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拘束具とマスター
 
 突如、月の聖杯戦争を襲った黒い影。
 その影の主。保健室のNPC真朱とまったく同じ顔をした少女によって追い詰められた私は、虚数の海に堕ちた。
 なんとかサーヴァントであるセイバーの助けによって、ここ、旧校舎に逃げ伸びたが、いったい何がどうなっているんだか・・・。
 とりあえず同じく旧校舎にたどり着いた幸村と柳の案で、まずはサーヴァントと再会することにした。
 レトロな木造の校舎を歩く。夕景と相まって、どこかノスタルジックだ。旧校舎に合わせた紺セーラーのスカートを翻しながら、セイバーの待つ教室に入る。
 あれ、おかしいな?誰もいないんですけど。
 首を傾げていると、背後から聞きなじんだ声がかけられた。

 「まったく、世話の焼ける雌猫だな。お前は」

 セイバー!!
 如何に声が高圧的だろうと俺様だろうと、やっぱり安心する。
 満面の笑みで振り返り・・・、固まった。

 「しかし、なんなんだ?この校舎は。馬小屋の間違いなんじゃねぇのか、アーン?」
 「・・・」
 「セラフのヤツも妙なものを造りやがって」
 「・・・セイバー」
 「アーン?」
 「その格好はドウナサッタンデスカ?」
 「フ、やっとツッコミやがったな」


 満足そうにフフンと鼻を鳴らし、教卓に腰掛け長い足を組み替えるセイバー。
 思わず片言の敬語になったのにはわけがある。
 おそらく、セイバーが突っ込んで欲しかったのも、同じ理由だろう。


 学生服なのだ。


 セイバーといえば、自分の中では鮮やかな青い西洋貴族服の姿が通常だった。
 青みかかった校舎より深く、海を模したアリーナより輝かしい青がトレードマークだった、セイバーが。

 学生服を着ているのだ。

 といっても、旧校舎の皆が来ている学ランではない。勿論、月立海のモスグリーンのブレザーでもない。
 たとえるなら、そう。ド田舎の学校に転校してきた、帰国子女と言ったところか。
 キャメルのブレザーに、チェックのズボンがどこぞの私立のお金持ちお坊ちゃん学園の制服のようで、顔立ちの華やかなセイバーに良く似合っている。ネクタイがゆるめに縛られているのは、首にはめられた首輪のせいだろう。制服に首輪とはまたDQN・・・、エロイけしからん・・・、すみませんでした。オブラートに過剰包装して“異様”としておこう。
 首輪は華美な装飾こそないものの、使われている金属がプラチナであると一目でわかるほどに上質。革も相当いいものだろう。セイバーの白い肌に生える臙脂がまたエロし。いいご趣味ですね。ご馳走様です。
 総合して。

 「・・・・・・なに、その格好」
 「その間が気になるが、実は俺もよくわからん」
 「は・・・?どういうこと?」
 「お前と同じだ。目が覚めたらこの服に変わっていた。見たところサーヴァント用の拘束具みてぇだが」

 あぁ、それで首輪なんですか。
 てっきり深刻な病を患ったのかと思いました。厨二的な。

 「・・・まさか手前、俺様が好き好んでコイツを着ているとでも思ったんじゃねぇだろうな?」
 「ソンナマサカ」
 「おい、俺様の目を見て言いやがれアーン?」
 「本当に思ってないって。というか、嫌なら脱げばいいじゃない」
 「それができたらとっくにやってる。曲がりなりにも拘束衣装だからな。特殊なプログラムのせいで俺様でも脱げねぇんだよ」
 「え、それ大丈夫なの?」

 見たところセイバーに異常はないようだが、そんな呪いアイテムを纏っていて問題ないのか?
 しかし、着せられているセイバーはけろっとしている。

 「着慣れないだけで不調はないな」
 「そう、ならいいけど」

 とはいえ変な話だ。
 セイバーは、見たところは私と同じ年くらいの男の子だ。学生服を着てもおかしな年ではない。だが、何故デザインが違うのだろう。同じ学ランでもいい気がするのだが・・・。この衣装でなければならない理由がわからない。なにかが頭の隅に引っかかる。

 「そう難しい顔をするな。俺様が大事無いと言っている。何も異常はない」

 ・・・なんだかこちらがむずがゆくなってしまうくらい優しい顔で言われると、恥ずかしい。心配しているのがばれているようだ。
 
 「それよりも、だ。おい、従者。お前の王が服を着替えたんだぞ?なにか気の効いた褒め言葉はねぇのか?」

 さぁ、褒めろ!!
 と青い目をキラキラさせて踏ん反りかえる、セイバー。
 ・・・制服効果おそるべし。いつもは英霊ということでどこか近づきがたい雰囲気があるセイバーが、人懐っこい外人転校生にしか見えない。

 「かっこいいわよ。その格好なら放課後デートできるわね」
 「そうだろう!!下々の文化にこの“学生服”を着て学業が終わったらそのまま街を練り歩くってのがあって前々から興味があったんだ!!」

 ・・・・・・切り捨てられる覚悟の冗談だったが、大変お気に召した回答だったようだ。

 「城下に出ても必ず付き人がいる上に、食事や娯楽は一切できなかったからな。ぜひとも“ぷりくら”とやらを食べて“にくまん”を撮ってみたい!!雪樹、お前を放課後デートとやらのお供に任命してやる。光栄に思いやがれ!!」

 ・・・っ、無垢な笑顔がまぶしい!!
 生前は縛られた生活をしていたらしいセイバーは、どうやら庶民の文化に興味津々らしい。完っ全に放課後デートの意味わかってないだろうけど。
 ちなみにプリクラが撮るもので、にくまんが食べるものである。

 「放課後デートとやらは、コイツを着ないとできないんだろう?そう考えればこの拘束具の忌々しさも薄れるってもんだぜ」

 憧れの“放課後デート”に、今からうきうきしているセイバーにうっかりキュンときたとか内緒だ。
 むしろこんな地味顔庶民代表のモブ女が、王様のデート相手で大変申し訳ありません。

 「じゃぁ、デートの約束に指きりでもしとく?」
 「ユビキリ?」

 セイバーは怪訝そうな顔をしながら、愛用の突剣を出した。・・・制服とミスマッチじゃないところが不思議だ。

 「物好きなやつだな。どの指を切るんだ?」
 「そうじゃない!!」

 コイツ、私の指切る気満々でいやがる!!しかも本気で!!

 「指きりってのはそんな物騒なもんじゃないから!!」

 どこの組の世界よ!!
 本気でわかっていない様子のセイバーの手をとり、自分の小指とセイバーの小指を絡める。
 セイバーは興味深そうに、しげしげと眺めている。

 「こうやって、小指を絡めて振りながら・・・」

 ゆびきりげんまん嘘ついたらハリセンボンのーます

 「ゆびきった。で放すのよ。ま、約束を守るためのおまじないみたいなもんね」
 「なるほどな。令呪みたいなものか」
 「そこまで拘束力はないけど・・・」

 まぁ、そんなもんだと思ってくれればいい。
 セイバーは繋いでいた小指をじっと眺めている。まさか、気安く触れるな下民とか言われるんだろうか?
 おそるおそる顔を覗き込むと、再びセイバーの小指が絡まってきた。

 「いいな!!気に入ったぜ!!これでお前に命令ができるんだろう!?」

 ・・・なんか違う。いや、全然違うのだが、大層嬉しそうなので水は差すまい。

 「約束だ。絶対に“放課後デート”をするぞ、従者(マスター)!!」

 指きりをもって、セイバーたる俺様が命じる!!
 一人でお使いをこなした子供のように誇らしげな笑顔に、きゅんきゅんきたとか認めてやる。なんだこの可愛い生き物。
 どうやら、このわけのわからない月の裏側も、存外悪くないらしい。

 ・・・・・・・・

 千夏様

 リクエストありがとうございます。

 Dive to the moon CCC番外編です。
 いつか書きたいと思っていたので、すごく楽しく書かせていただきました。
 セイバーの拘束具は、氷帝の男子学生服です。プラスで首輪。なにそれ厨二。きっと、鯖エンドはきっと放課後デートです。
 CCCだと、ルートが二通りあって、Diveのように雪樹が主人公のルートと仁王が主人公のルートに分かれます。前者が鯖エンド、後者がいわゆる真エンドです。真朱のBBちゃん、メルト、リップもいつか書きたいですね。アンデルセンやカルナとのやり取りも。
 まぁ、その前に本編完結させないとですが。気長にお待ちください。

 改めて御礼申し上げます。これからもよろしくお願いします。


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