目が覚めたら、不思議な森?にいました。
「………、えー…と?」
そばには小春ちゃんとユウジくんが倒れている。どうやら気を失っているだけのようだ。目立った怪我も見当たらないし、呼吸もちゃんとしているから大丈夫だろう。
それにしても、ここ、どこ?
確か、学校でクロウカードを封印して、みんなで帰る途中だったはずなんだけど…。
そういえば、金ちゃんがいない。
「金ちゃーん、どこにいるのー?」
もしかして、クロウカードの仕業なのかな?
でも、全然気配は感じられない。うぅん、この森、何か不思議な気配がするにはするんだ。なんというか、こう、神社とかパワースポットみたいな。綺麗な空気に満ちている。優しくて、神々しくて、大きな力の気配。恐いかんじがしないから、悪いものではないと思う。
だけどこの力の気配が大きすぎて、金ちゃんの気配を探そうと思ってもうまくいかない。見当たらないし、呼んでも返事がないってことは離れ離れになっちゃったのかなぁ…。
「どうしよう…」
探しに行きたいけど小春ちゃんたちを放っておけないし、〈翔〉で空からこの森の全体を見渡そうにも人が近くにいたら騒ぎになっちゃう。
なにか使えるカードはないかなぁ…。
やだ・・・、どうしましょう・・・
「ふぇ?」
いま、風に乗って声が聞こえた。
戸惑っているような、焦っているような声だ。たぶん、女の人の声。
少し迷って〈風〉に二人を任せることにした。腕に〈風〉の鎖を巻いて、二人が目を覚ましたらこれを辿ってくるように頼んで声がした方へ向かう。
たぶん、森に満ちている気配の源がある方から聞こえてきたはずだ。気配を辿りながら森を進む。ほどなくして少し木々が拓けた場所に出た。
「……、木?」
湖の真ん中にある小島に、白い枯れ木が立っている。
遠目から見ても枯れているとわかるはずなのに、なんでだろう。あの木は、生きる力に満ち溢れて見えた。
「あの、だれか…」
『だれだ、おまえ?』
「ふぇ?」
声が聞こえて、湖を見るとかわいいラッコさんがいた。
・・・このラッコさんがしゃべったのかな?さっき聞こえてきた声と違うのは間違いないんだけど。
「こんにちは。僕に話しかけてくれたのは、君?」
『なんで人間がここにいるんだ!!」
「ふえぇぇ!?」
ラッコさんが、ホタテを振りかざして襲ってきた!!
水から飛び出してきた小さいからだをよける。
「―――!!」
追撃するように、なんの前触れもなく頭の上に大きな石が現れて影を差す。
どこから飛んできたのか考える暇もなく、逃げるために湖に飛び込む。
「ぷはっ!!」
け、結構深い!!
泳げないわけじゃないけど〈水〉に手伝ってもらえばよかった!!
水面に顔を出すと、さっきまで僕がいたところに大きな石が地響きを立てて落下していた。
……、あ、危なかった!!!!!
ふぇぇ、間一髪だったよぅ。
「っち、はずしたか」
茂みの中から、背の高い男の人が大きな紫色のムカデさんを連れて出てきた。肩にはかわいい黄色い…、ウサギさんかな?を乗せている。青いラッコさんが、お兄さんの長い足元に駆け寄る。
みんなこの森に住んでるのかな。もしかしてここは私有地で、一般人立ち入り禁止だったりして…。とにかく事情を話さないと!!
「しかも、わざわざ”水”の中に飛び込むとはな・・・」
「あ、あの、僕…」
「だが、その程度で俺から逃げられると思うなよ、お嬢さん」
ニヤリ、と好戦的に口の端を吊り上げるお兄さんの右手に、輪っかのようなものが渦巻く。
この人も魔法が使えるの?ふえぇぇぇ、どうしよう。背水の陣どころか現在進行形で水の中だよー!!
殺る気満々で構えるお兄さん。なんとか話をしないと!!
「待っ…!?」
「待って。ロー」
あの声だ。
ローと呼ばれたお兄さんが、輪っかの展開をやめる。
「ユリ・・・?」
「彼女は、敵ではありません。私が、・・・私たちが誤って喚び寄せてしまったの」
驚くローさんと僕の目の前に、虹色の粒子を纏った光の玉が現れる。
光の玉が強く輝くと、水の上に綺麗な女の人が立っていた。僕からは後ろ姿しか見えないけど、腰まである深い群青色の真っ直ぐな髪がすごく綺麗だ。
「真朱ちゃん!!」
「真朱っ!!って、誰やあんたら!!」
「人が浮いとる!!」
「ムカデでか!!!」
小春ちゃんとユウジくん、それから金ちゃんが走ってくる。よかった、見つかったんだ。
岸まで泳ぎ、淵に手をかける。よくわからないけど、話をするなら水から上がりたい。ぐっと力をこめ、体を上げようとしたら、下からなにかに持ち上げられた。
「ふ、ふぇぇ?」
転がるように陸地に上がると、黒い毛並みに赤い鬣がおしゃれな・・・狐みたいな生き物に助け起こされる。
いつの間にきたんだろう?この森の生き物なのかな?小春ちゃんたち、すっごい驚いてる。
「なんやコイツ、狐か!?」
「湖からうさぎ出たぁぁぁぁぁ!!」
「あらぁ?よく見たらプリティね。せやけど見たことない生き物ねぇ」
湖から出てきた青いうさぎのような生き物。この子が陸に上がるのを助けてくれたのかな。
綿みたいにもこもこした羽の鳥さんが、びしょ濡れの僕を気遣うように寄り添ってくれた。あったかい。でも、ぬれちゃったら申し訳ないな…。 「助けてくれて、ありがとう」
『どういたしまして』
「えーと、狐くんも、ありがとう」
『狐じゃないゾロアークだ』
「ありがとう、ゾロアークくん」
「―!?おい、お前何故コイツの名前を・・・?」
ふぇ?
お兄さんが、隈の濃い目で睨んでくる。
「え、えっと、だって、彼が教えてくれたから」
「・・・まさか言葉がわかるのか?」
「そぅ。だからこそ、私たちは彼女を招きました」
「どういうことかしら?」
「真朱になんの用事があるんや!!」
いつの間にか、群青色のお姉さんが隣に浮いている。
顔見て納得する。やっぱり綺麗な人だ。お姉さんは静かに首を横に振った。
「私が会いたかったのは彼女ではありません」
「「「「は・・・・?」」」」
うん?僕を招いたけど、会いたいのは僕じゃない…。…どういうこと?
お姉さんは、僕に視線を合わせるようにしゃがみ、微笑んだ。
「私が会いたかったのは、貴女と同じ魂を持つ、異なる世界の貴女・・・。簡単に言えば”もう一人”の貴女なのです」
…つまり?
「「「人違いかい!!!!!!」」」
関西人三人が息の合った突っ込みを披露すると、ゾロアークくんのそばに立っていた青い…犬のような生き物が何か言いたそうにして耐えていた。
ローさんに至っては、我関せずと言いたげに明後日の方向を向いている。
「ふふふ。でも、驚いたわ。力まで同じだなんて」
『ゼルネアス様、笑い事ではありません』
「そうですね、ルカリオ。・・・でも」
ゼルネアス…?あれ?でもローさんはユリって言ってたような…。どっちなんだろう?
「本当に、そっくり。私の知る、解放の御子に。名も、力も、魂も・・・すべて」
愛おしそうに、懐かしむように目を細める・・・ユリさんの瞳孔が、Xの文字のように光った。
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『十六夜桜』の桜様
リクエストありがとうございます。
『Blue moon 蒼い月』とのコラボ、と言うことで書かせていただきました。
占路の不手際により、桜様にご迷惑をおかけしました。申し訳ありません。問題点は修正いたしました。 一応、当サイトの真朱にしろ雪樹にしろ、CLAMPさんの『ツバサ』のように『魂の同じ、異世界の別人』という設定で書いています。特に真朱は強い力の持ち主なのでより顕著にそれが出ます。もしかしたら、ぽけぷり!!の真朱とユリさんは面識があるのでは・・・、と匂わす終わりにしてみました。続きはお任せします←
改めて、お礼とお詫び申し上げます。これからも当サイトと管理人をよろしくお願いします。