いきまっしょい!


あの日から我がグループに変化があった。なんと友人達は普段の彼からは想像できない部活に所属しているというギャップが面白いとか言って孤爪くんを気に入ってしまったらしく、昼休み終わりに孤爪くんが帰ってくるとすごい勢いで絡み出すようになった。


「孤爪おかえり〜!今日も部活っしょ?」

「…………えっと、うん」

「まじウケる運動部とか!次の大会は絶対応援行ったげるかんな!楽しみにしとけ!ちょー盛り上げるから!」

「来なくて良い」

「んなこと言うなってー!本当は嬉しいくせに!」


バシバシと孤爪くんの背中を叩くなおピと、それを見て手を叩きながら笑ってるみぃちゃんとなっち。孤爪くんは全力で顔を歪めている。無表情そうに見えて嫌な感情はすぐに表に出ちゃうんだね、そういう可愛いところも好き!と思いながらも、孤爪くんの嫌がる姿を見るのはなんだか心苦しくて、こんなに近くにいるのになかなか話しかけられない。

みんなと同じように私だって話しかけたい。きっとこれが他の男子だったらいつものように私もみんなの輪の中で「うちわとか作って応援しにいくから!会場で一番目立つようにギラギラの!」とかふざけて言うんだろうけど、孤爪くん相手に絶対にそんなことは言えない。


「ねぇねぇ、研磨って呼んでもいい?」

「やだ」

「研磨〜次の試合いつ?」

「教えないし名前で呼ばないで」

「つれねーなー。うちらと研磨の仲じゃん!恥ずかしがるなって!」


私がおどおどしている間にとんでもなく孤爪くんとの間合いを詰めた友人達に思わずビビる。研磨…私だって呼びたい。けどあの死にそうな顔をしてる孤爪くんを見るとやっぱ辛い。研磨って呼んだらあの顔を向けられてしまうのかと思ったら私の心が辛い。

結局チャイムが鳴ってしまっていつものように友人たちが解散していく。やっと静かになったとでもいうように席に座って疲れた顔でゲームを取り出す孤爪くんを見ていると、いつもはこの先生が来るまでの時間に一言二言交わしていた会話でさえも疲れさせてしまうんじゃないかと思って、ここくらいしか話しかけるタイミングなんてないのに声をかけるのを躊躇ってしまう。

多少強引に無理やりにでも孤爪くんとどんどん距離を縮めていく友人達とは反対に、私は一言も話せないまま今日も一日を終えるのだ。


▼ ▲ ▼ ▲ ▼ ▲


次の日、いつものように放課後の教室でダラダラとしていると体育館行こーとまたなおピが突然言い出した。実はあれから何度か体育館へバレー部の見学に行っている。最初は練習の邪魔になってしまうんじゃないかとハラハラしたものの、練習中はみんなもちゃんとうるさくせずギャラリーに座り込んで小声で話をしていたり携帯をいじっている。リエーフくんや孤爪くんに絡むのは決まって休憩中だ。


「リエーフー!やってる〜?」

「お、今日も来たなギャル集団」

「クロ先ちーっす」


存在がかなり目立つため早々にバレー部の皆様から認知を受けた我が集団は今日もギャラリーから練習を眺める。私からしたらみんなが行きたいというから付いてきている、という言い訳をしながら孤爪くんのバレーが覗けるので嬉しいことしかないんだけど、未だに部活中の孤爪くんにも話しかけたことはなかった。


「じ、女子…!」

「虎まじウブすぎん?ウケる〜」

「震えてる動画撮れた、ストーリー載せとこ」


ワイワイと近づいてくる部員に容赦なく絡みだす友人達はなかなか肝が座っていると思う。


「あれ?孤爪くんがいない」

「研磨ならあっちに逃げてったな」


ドリンクを飲みながらニュッと顔を出したのは黒尾先輩で、いきなりすぎてびっくりしていると元々ちょっと目つきの悪い目をさらに細めてニヤリと笑った。どこからどう見ても悪人ヅラなんですけど。ちょっと怖い。変な契約させられて借金とか作らされそう。


「キミが館ちゃん?」

「……何で名前」

「研磨が言ってた」


え、孤爪くんが!?私のことを!?言ってたって一体何を…視線感じてキモイとか怖いとかだったらどうしよう悲しくなっちゃう!びっくりしながらドキドキしていると、先ほどまでの悪人ヅラをやめて突然笑い出した黒尾先輩は言葉を続けた。


「あのギャル集団の中で一人だけ少し大人しいのがいるよなって言ったら名前教えてくれたんだ」

「別に大人しくはないんですけど…」

「でもあの3人みたいには絡んでこないじゃん」

「まぁ、それは…」

「研磨が絡まれるのあんま好きじゃないからとか?」

「え!?」


私の反応を見た黒尾先輩は面白いものを見つけたような顔をしながらニヤニヤとこちらを見てくる。


「研磨ばっかり見てるからね」

「バレてるんですかっ!?なんで!?」

「研磨のこと好きなの?」


好きだ。好きだけども!いつ誰に聞かれているかわからないここでこの話はしたくない。黒尾先輩の大きな体を無理やり引っ張って体育館の端っこへと移動する。


「本人には言わないでください!お願いしますっ!」

「おー、安心しろ」

「なんか全然信じられない!顔が信じられない!」

「言うなぁ。確かにこりゃ大人しい部類じゃねーな」


で、好きなの?ニヤニヤとした顔を全然隠そうとはしないまま黒尾先輩は再度問いかけてくる。楽しそうなのがちょっとだけムカつく。もうここまでバレてしまっていればヤケだ。


「好きです」

「ほー」

「ホントはめっちゃ話しかけたいし、孤爪くんの金髪真似して私も染めておそろじゃんとか言いたいし、毎朝おはよう今日もかっこいいね好きって伝えたいし、それから」

「あー、もういいもういい」


溜まりに溜まった私の願望を伝えていたら引いたような顔をして落ち着けと諭してくる。まだ!まだ孤爪くんにしたいことはこんなもんじゃないのに!どうせ聞くんなら最後まで聞いてよ!と悔しく思っていると、そんな私の様子を見た黒尾先輩はブヒャヒャヒャと笑い出した。なにその笑い方?


「笑い事じゃないっす!」

「いーね、気に入った。ボクが味方になってあげよう」

「まじすか!」


すっごい胡散臭いけど。孤爪くんの、確か幼なじみでめちゃくちゃ近くにいるらしい黒尾先輩が協力してくれるというのはとてもありがたい。思わず「あざす!」と体育会系みたいな挨拶をすると、さらに面白がって笑う先輩がヒィヒィ言いながらも口を開いた。


「研磨にもそんな感じで接すればいいのに」

「…何言ってるんですか、孤爪くんこういうノリ嫌いじゃないですか!無理です」

「まァそうだけど、あいつ結構押しに弱いとこあるよ?」

「ホントですか…」

「俺が言うんだから間違いありません」


胡散臭い顔すぎて全然信じられない。そんな考えが表情に出てしまっていたのか、「キミ結構失礼なところあるよね?」と黒尾先輩が呆れたように眉をひそめた。


「まぁ良いや。早速明日からガンガン行ってみろよ。出来たら報告するように」

「…難しいけど、けど、頑張ります!!」

「おう、その意気だ。俺を楽しませてくれよ」


かくして、私と黒尾先輩は仲良くなったのである。




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